Nobee谷口の撮影日記 / 第二章

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ワンダフルという番組からの依頼

被験者をを見分ける(196ページ)

話しかける私が現地に赴き直接、被験者を選んでいる所にポイントはあります。自分で見て、反応や表情を確かめてから被験者を決定しているのです。

担当ADに被験者を集めさせると極端に成功の比率が下がるんですよ(笑)。忙しいからと被験者探しをADの方に任せた途端に、かかる確率がグッと低くなった。

前述しましたが、私はセールスや営業を行ってきた者で女性のスカウトマンもやっていました。番組関係者にはいっていませんけどね(笑)。声をかけることに慣れているのです。

その経歴を買われて政治家の秘書にスカウトされたり、飲食店の経営にも携わったことがあります。相手を足止めしたり人に「声を聞かせる」ことを専門としてきました。

そのADさんが悪いのではありませんよ? その人の嗜好とか性格が影響します。被験者を選びに行った人が、自分でも話しかけやすいっていうか、同じような傾向を持つ人にばかりに声をかけ集めてしまうとそういったことが起こります。

ADや番組の関係者は面白いキャラクターを優先したりとか映像作りを考えてしまう。催眠の収録だけはそうであってはなりません。まず前提として催眠に「実際にかかりやすいかどうか?」のその一点に絞る必要があります。

キャラクターとか面白い反応は。あくまでも「かかってから」の話で・・・。そこを誤魔化すなら演技にしかなりません。ヤラセになってしまうでしょうね。ですからどんなに「この子を使ってくれ」と頼まれて連れてきても駄目なんです。

私と感覚が近い人でないと難しい。ですから一度、感覚が重なればADに任せてもバンバンかかりますが、そうでないとどうしてもかかりは悪くなります。

難しいんですよね。被験者選びって。長く催眠に関わって人数の催眠誘導を行ったり、テレビ番組やイベントに出て催眠を行ってきた人、自分で開業、プロとして施術やショー催眠をやっている人には私の言っていることもわかると思います。。

実演の際のブレッシャーには相当のものがあります。スタッフも含めて周囲にも大勢の人がいます。街頭なら野次馬や一般人もこちらにじっと注目しています。

そのプレッシャーの中で正確に初対面の相手から被験者を選びだし、その場で催眠に成功しろといったって、普通の神経じゃ務まりませんよ? 普通は逃げ出してしまいます。

私は多少、変わっていますから・・・。

この本の中で上げた例などほんの一部に過ぎません。色々と経験積んで腹が座ったわけです。ですから、少々のことなら平気なんですよ。

現場にいたスタッフは、私が「かかる人は街頭ですれ違ってもわかります」といった途端に「ホーウ!」といったきり絶句していました。

そりゃ、そうでしよう。それが簡単にできるならある意味ではマンガかフィクションの世界ですからね。すぐに信じろ、というほうが無理です。

本当にできるのかどうか、何度も念を押されました。当然といえば当然ですね。打ち合わせの際にテストとして番組スタッフ数人には確かに催眠はかけて成功は収めていました。ただし実際に力メラを街頭に持ち出して「撮れませんでした」では話にならない。

よく信じる気になったモンです(笑)。

嘘じゃありませんよ。実際にこの後、何度も街頭やロケにくり出し撮影には成功していますから。私自身、すでに似た経験はあって勝算も自信もありましたけどね。

ですが、その時点では実際に街角で赤の他人に片っ端から声をかけて、その場で催眼をかけてきた経験などありませんよ。ああいった内容はテレビカメラがあるからこそできる行為ですから。普段からそんなことをやっていればそれこそ犯罪です(笑)。

カラオケがガンガンなってるキャバレーとか店内では成功したことがあった。ただし街頭で通りがかりの人にはない。

ですから私が、「どんなに自信がある」といい張ったところで、可能性とか推測の域を出ていませんよね? 「できると思います」「できるかもしれない」「できるんじゃないかな?」つってのが本当でしょう。

よくその部分に気がついて突っ込んで聞いてくるスタッフがいなかったと思います。

「谷ロさん、実際にそれ、やったことがありますか?」

と問われればきっと私も返答に困りました。その時点では経験はなかった。その質問に詰まった時点で企画そのものが消えてしまったでしょうね。

当然、私からはそれには触れませんでした。「大丈夫、私にはできます」って、その場はいい切ってしまっています。私にしても多少の不安はあったんですけどね。そんなことは自分からはいいませんよ(笑)。いえばせっかくのチャンスがなくなってしまうから。

出る気はあったんです。その時は十分に(笑)。

やっと全部の打ち合わせが終わり、TBSの社屋の外に出ると外はもう真っ暗になっていました。東京駅まで行くのに、わざわざ局の差し回しのハイヤーを使わせてもらいました。

黒塗りの立派な奴です。よく政治家が乗っていそうな運転手つきの車、といえばわかるでしようか? 遠ざかる局を、私がハイヤーの中から振り返ってみれば担当ディレクターとADの方が、私に向かって深々とお辞儀をしているところが見えました。

最初に呼び寄せた時はとても軽い扱いで。私は大勢いる「催眠術の先生」の中の一候補に過ぎませんでした。交通費もろくに出したくないと渋ったディレクターやスタッフが、何人も並んで後ろで深々とお辞儀をしているわけです。

その時点で、出演の候補者が私一人に絞られたことを意味します。

私はその光景を見て「これはえらいことになったかも。もし、これで派手に失敗したらいったいどうなるんだろう?」と考えて、少々恐くなりました。