正しい催眠誘導の方法 / 第十七章

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経験値を高めるために一旦解除

催眠を「解く意味」と深化のための仕組み(88〜91ページ)

催眠は一旦、解かなければ深くはならない(88ページ)

積み重ねた本本来であればここから具体的な暗示方法についての解説に入ると思います。

そういった解説書も多いと思いますが、私はあえて解除方法、催眠の解き方についての説明を先にすることにします。

矛盾しているように感じるかもしれませんが、ここまでで一旦、催眠を解かなければなりません。

暗示の説明の前に解除法を解説するのは、解除がある意味では深化の範疇(はんちゅう)に含まれるからです。

被験者にかけた催眠を一旦「解く」ことは重要になります。ここで催眠を解除することはその後、催眠を更に深化させる時に有効な手順となり手助けとなるからです。

まあごく稀にですが、途中で催眠を解除したためにその後の催眠に対する印象が悪くなってしまい、まったく受け付けなくなる場合もあるようです。

私は以前、依頼を受けてあるテレビ番組の収録にお邪魔しました。

被験者が事前催眠において良好な反応を示しましたので、安心して催眠を解除した所、後の誘導(本番)がうまく行かなくなったケースもあります。

ただし、これは少々特殊なケースです。この場合は本番までに時間が空き過ぎてしまい、印象が薄れてしまったことが主な原因でしょう。

また、待ち時間の間に他の出演者から何かを言われ、催眠に対する偏見や誤解、被験者の緊張が一気に増えたことにも起因すると思います。

ご本人は深化がある程度、深まったら記憶をロスト(失っている)ことが多いですが、周囲はそれを見ています。中には催眠にしっかりかかった人を馬鹿にしたり、かかるのは「頭が悪いからだ」とか「単純だからだ」と思い込んでそう囃し立てる人もいるんですよ。

通常のケースでは解除してそのまま、すぐにもう一度深化させますから、解除する前よりも催眠は深くなることが多いのです。

せっかく一度かけた催眠を「なぜ解かなければならないんだろう?」と不思議に感じる人もいるかもしれませんが、実はそこには深い意味があります。

理由を一言で説明すれば被験者の側に「催眠に対する経験を積んでもらう」ことが目的になります。

人間は経験によって学習をする動物です。一度何かを経験しておけばそれを元に次の行動を組み立てられますから、よほどのことがない限りパニックにはなりません。

経験したり練習することで心理的な圧迫感や不安感は薄れるのです。

催眠も同じことです。催眠を一度経験した人は、次回の誘導の際にはより多くの知識と経験を手に入れます。

そういった意味で催眠は、殆どの場合、一度目より二度目、二度目より三度目の方がより深くかかる傾向があります。前出のように余計な横槍とか被験者が不愉快に思う追加情報がなけれなそうなります。

これらは脳の中のホルモンなどのバランスにも関係があると考えられています。

古い書籍の紹介「心のプリズム」朝日新聞社科学部編
2017/12/08改訂2006/05/01初稿朝日新聞社「心のプリズム」という書籍今から40年近く前の書籍の紹介です。元々の記事は朝日新聞に連載されていたコラムのようです。ですから、記事として新聞紙上に載ったのは1971年でその翌年の19...

事前に体験して情報を持っている時と不安感を持ちながら「初めて」何かを行っている時とでは、脳の中で分泌されるホルモンの分泌、種類や量が明らかに異なってきます。

短時間で深化と解除を繰り返すことは、疑似的な体験を積ませることになります。被験者は通常であれば何日もかかる筈の情報(体験や経験)を一気に手に入れることにもなるのです。

ですから、催眠を一度解くことには何ら問題はありません。初心者の中には催眠を解くことを嫌がり「せっかく、ここまでやったのに」と考える人がいるようですが、そう考える必要はありません。

ここで催眠を解くことが、次への重要なステップになります。

私の場合、催眠を解く前に被験者に次のような指示を与えてから催眠を覚ます(解く)ようにしています。

「あなたはこれから催眠から目を覚まします」

「最初は何となくボーッとしますが、気持ち良くすっきりとした気持ちで目が覚めます」

といった暗示と、さらに、

「あなたが催眠から覚めた後、私がハイ、といって指を一つ鳴らします」

「すると今よりももっと深い催眠、リラックスした状態にすぐに気持ち良く入ります」

という暗示を追加しておきます。これには二つの理由があります。

まず、一つは被験者がどのくらいの深さの催眠(トランス)に入っているかを施術側が知るためです。

催眠のもっとも難しい所は被験性(催眠のかかりやすさ)に「個人差」が存在することです。そしてその「個人差」は外からは見分けがつきません。

場合によっては、同じ人に同じ催眠の手法を用いてもタイミングや被験者の感情や周囲を取り巻く環境によっても変化しますから、結果は常に一定ではありません。

ですから私は一旦催眠を解き、催眠中にあったことをどの程度まで覚えているかを話してもらうようにしています。

被験者が催眠にどの程度までかかっているのかを知るために、「一旦解く」のです。

そこまでの印象を話してもらい、その後、もう一度、深化させてみます。

催眠中の記憶がすべて残っている場合は催眠の深度は浅いと考えていいでしょう。

逆に何も覚えていないといった反応や記憶の一部は残っているが、催眠中にどれくらい時間がたったのか、朧げで感覚がない(時間の喪失、ロストと呼びます)といった現象が起こっていたら、催眠の深度は深いと考えていいでしょう。

初心者にありがちな失敗ですが、どの程度かかっているかを考えず、やたらと深化させようとする人がいます。催眠の深度を深くしすぎると被験者は完全に眠ってしまいます。

眠らないまでも反応が鈍くなってしまい、被験者が返事をしなくなることもあります。

自分は気持ち良い状態のままでいたいので、施術中は返事をするのが億劫になるのです。

このような失敗をしないためにも、一度催眠を覚まして深度を計っておくことは無駄ではありません。どちらかといえば必須となる手順です。

経験を積めば、解除(解く)しなくても催眠の深さはわかるようになってきます。ですが、初心者のうちは難しいですから一旦、途中で目を覚まし聞き取り調査をすることで「催眠の深度」を計る参考にしてください。

被験者の記憶に残っている内容を探ることで、催眠が浅いままで失敗に終わった原因を推測することもできます。

もう一つの理由は先にも触れましたが、次の深化を引き起こし易い状態にしておいて、もっと深い催眠を行ったり、次に何かの現象(ショー催眠や実演では必要になります)を引き起こす前の準備のために行います。

一度解いたからといって、完全に一からやり直しになる訳ではありません。催眠は解いた後もしばらくの間は効果が持続しています。

いわば、準催眠状態というのでしょうか? ですから、解くことで全てがゼロになる訳ではありません。

逆に回数を重ねるたびに催眠誘導に必要な時間はどんどん短縮して行きます。

催眠にかかってその後、「無事に催眠が解けた」(解いてもらった)という経験は施術者に対する信頼(ラポール)にも繋がります。

それを繰り返すことによって、被験者は施術者に対して安心感を持つようになります。

被験者が持つ不安の一つに「催眠が解けなくなったらどうしよう」があります。実際には解けなくなることはないのですが・・・。そう考える人が多いのは事実です。

ブレイン・ウォッシュ、いわゆる洗脳騒動も頻発していますので。心配する人がいるのも当たり前の話なのですが。ああいったものは数日とか数ヶ月かけて浸透させる(させられている)もので。近親者とか恋人とか友人と触れ合ったり、仕事で忙しくしていると自然に解けてしまいものもあります。

それを洗脳者側も知っているから隔離しようとしたり、一箇所に閉じ込めて外部との接触を絶ちます。

できるだけ一度催眠を解いて被験者と話し合い、その時の印象や感想を聴くことで信頼と安心を増すように努力しましょう。また「次はもっと(催眠が)深くなる」といったキーワードを用い、次回の誘導を容易くします。

催眠を一回解かなければ深くならない、と書いたのはそういった意味があります。

体質によってはそのまま一気に深化する場合もありますが、一旦は解除したほうが無難ですし、無用なトラブルの防止にもなります。また結果としてその後の深化のスピードを速めることができます。

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