催眠術師のひとりごと / 第三章

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多重人格と向き合って催眠を使う

一度だけ、彼女に電話しました(101ページ)

私も少しは楽になりたかったのかもしれませんね。相当に苦しかったから。

これも初めて書きますが・・・。一番辛かったのは私が一睡もしていないことや、毎日、彼女を気にかけて出来る限り近くに居ようとしたこと、人工呼吸を繰り返していたことを「彼女自身が」まったく理解していないし覚えていなかったことなんですよ。

別人格に切り替わっているので、本人は記憶していないのです。

私は一人で毎晩、戦場に上がり続けていたことになります。

毎回が真剣勝負で下手をすれば死人が出る。一瞬の油断もできない。なのに褒めてくれる人も慰めてくれる人も理解してくれる人も、相談できる相手もいません。

彼女本人は何が起こっているか理解していないわけですから、私に対する感謝の念もありません。詰られることはあっても積極的に協力してくれることもない。

電話連絡が遅いとか私が一人でどこかに遊びに出かけていたかのようにも錯覚します。

これがキツかった。

「さっきまで誰と会っていたの!!」

って、それ「あなた」なんですが・・・。

誰かに話すわけにもいかないので、私一人で丸抱えになってました。

それからしばらくは会わないままで時間が過ぎました。

別れてニ年以上経ってから経過が気になり、一度だけ彼女に電話したんですよ。

それも散々迷ったんですけどね。彼女の勤める会社の名刺だけは捨てずに持っていたので・・・。私の性格を考えればかなり珍しいんですけどね。

私は過去を振り返るのは苦手なんです。今までに別れた女性に電話をかけたことはありません。

理由があって縁が切れるわけですから・・・。当時を思い出せば、苦しくなるだけでしょう?

なのに、その名刺だけしっかりと持っていたってのは、やはり、多少は彼女のことが気になったからでしょうかね?

電話で彼女本人から直接、「結婚した」と聞いた時、私は嬉しかったです。

今はもうまったく連絡していません。私とは交わらない人生を歩いているでしょうから・・・。

会社も変わっちゃったんじゃないですかね?

心から、彼女の幸せを願っています。

勉強しました。知識を漁った。彼女を「助けるために」。自分で考えられる、ありとあらゆる方法を探りました。

ところが、それを何とかして治してあげたい、和らげてあげたいと願い必死で取り組んだ結果が彼女との別れを招き、私のその後の進路を大きく変えるようになります。

不思議な感じがしますね。

カウンセラーになろうとは思っていなかったんです。催眠「術」で食うとかホームページを持とうとも思っていなかった。

これが、私が初めて手がけたカウンセリングというか、催眠を用いて精神的なトラブルと向き合うきっかけになった出来事です。

初めてにしては少々、重かったような気もします。