催眠術師のひとりごと / 第三章

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多重人格と向き合って催眠を使う

突然、起こり始めた呼吸停止(87ページ)

SOS アイコン催眠を用いて原因を探り、そのストレスや過去と向き合うようになった時、彼女に新たな症状が起こりました。

呼吸停止です。

最初、それは唐突に起こり始めました。

夜、眠りについていると彼女が私の肩を掴んだので、目が覚めました。

目を覚ますと彼女の様子がおかしいんです。

身体が反り返っており白目を剥いている。ハッと気がついて口元に顔を当てれば、すでに呼吸が止まっていました。

慌てて、その場で人工呼吸をしました。

あとになって原因がわかったのですが、原因は彼女の過去にありました。彼女は以前にある人間に殺されかけていました。

呼吸ができないように枕で顔を押さえつけられ強引に性行為を強要されています。その結果、彼女はその時、人格を破壊され本当に「殺された」といってもいいでしょう。その時の衝撃は彼女の中に長く影響を残していました。

深層催眠をかけその時に中から現れた彼女の分身は「私、本当に死ぬと思ったの、死ぬと思ったの」と、に私に泣きながら訴えかけていました。

「殺されると思った」

のではないんですよ。「死ぬ」と思ったのです。

普通ね、恐い経験をしたり殺されそうになっても「死ぬ」とは思わないし、そういった表現をしません。恐かったとか、殺されると思ったという表現にはなりますが、自分が「死ぬと思った」とは言わないものなのです。

私は神戸で震災にも遭っていますがその時、初めて「死んだ」と思いました。

死ぬかもしれない、とは思わなかった。これは確実に「死んだ」と思った。あの日、震災を体験をした人は同じような感想を持っています。あまりに衝撃が強かったり、自分がそれから逃れられないということが瞬時にわかると、人間は死ぬかもしれない、と悠長には考えられません。

瞬間的に「死んだ」と思うのです。

それはその人の体験が「死」の一歩寸前であったことを指し示すものです。つまりそれは彼女の身の上に起きた衝撃の大きさを現しています。

催眠を用いて自意識を一旦弱め、原因を思い出し、突き止めたことで彼女はその頃の痛みと苦しみを正確に再現するようになりました。

私から見ると催眠を用いたために一時的に状況は悪くなったかのようにも思いました。

そのトラブルを思い出した途端、自分自身でその出来事をもう一度体現するようになったからです。最初、それは悪夢という形で現れまったく同じ症状が起こり始めました。

それが、呼吸停止といった私にもわかる形で起こり始めたんですよ。