催眠術師のひとりごと / 第五章

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催眠の利用方法やストレスの軽減

ギャンブル依存の実際例(137ページ)

円 マーク行動抑制を用いる場合は「何かを禁止する」といった暗示とは別に「メンタル面」つまり、その行動や習慣、リアクションを繰り返す原因になっている部分に働きかけることで効果を求める方法があります。

どちらも催眠を用いて潜在意識に働きかける部分には変わりがないのですが、その働き方が微妙に異なっています。どちらも混同するのではなく分けて考え、整理してから用いる必要があります。

ここで参考例を幾つか、順に上げて説明を行ってみみましょう。

私が催眠をギャンブル依存症を断ち切るのに用いるとします。

その場合、こういった暗示を行うと思います。

「あなたはパチンコに行くと楽しい。行けばドキドキする。今日こそは勝てるような気がする。以前に大きく勝った時があってそれが忘れられない」

おかしな話だと思うでしよ?ギャンブルを止めることが目的なのに、それを勧めたり褒めたり認めてどうするんだ? と思うかもしれません。

でもね、この後の暗示を行うために、ここの部分はどうしても必要になるのです。

「しかし、あなたは以前に大きく負けた時のショックも覚えており、それを気にしてもいます。今日こそは絶対に負けないつもりでパチンコ屋に向います」

「パチンコ屋に向かっている最中に、どうしても負けた時のイメージが膨らむようになってきます。今日は『なぜか?』勝てるような気がしない」

「それが気になって『今日は』どうしてもパチンコ屋に足が向かなくなります」

この「なぜか?」が肝心なのですよ。本人にすれば催眠から覚めれば忘れてしまいますから、この「なぜか?」の部分はわからなくなります。

ですが、実際には暗示として効果が残ります。

今日は『なぜか?』勝てる気がしない、というところがポイントなんです。今日はたまたま勝てる気がしないが、明日になれば違うかもしれない、と本人に思わせ、無理やりに我慢させる感覚を減衰させています。

ギャンブルをする人には縁起を担ぐ人も多いですね。基本は「勝ちたい」んですよ。その思いが強い。

催眠にかかる人には多少、気の毒な面もありますが・・・。私はそういった部分も積極的に利用しています。例えば「右足から踏み出した」から負けるかもとか「偶数日は縁起が悪い」とか。

聞き取り調査を入念に行えば雑談の中にも、そういった部分が出てくることになります。

今日の気分や自分の勘で「今日に限っては」どうしても勝てるような気がしないとか。何らかの縁起を担ぐ人ならそれを利用して「縁起が悪い」「その金で他の遊び、何かを食べに行こう」といった方向に振ってしまいますね。

基本は雑談から探るんですよ(笑)。ご家族やご本人と面談した折に、相手(相談者のご家族や本人)がそういったことを気にする人であった場合は、私は(しめた!)と思ってしまいます。

そこの癖を掴んで催眠が「よくかかる」ならば、勝ったも同然ですよ。

占いが気になるとか、縁起を担ぐ人の場合には一種の先入観があるんですよ。その先入観をうまく利用して、本人の自分の思い込みを強化する形で催眠を行いますから、効果が持続しやすいのです。

本人にとって通常と違うのは、その「なぜか?」という部分がずっと続いてしまっているところでしょうね。ご本人は「自分の意思で」打つ日を選び、ツキを呼び戻そうと考えるのでしょうけど、実際にはその部分に催眠による干渉が加えられていることになります。

その暗示で、一日、パチンコに行かなくなれば、後は簡単な話です。

「パチンコで『負けずに済んだ』そのお金で、家族にお土産を買って帰ります。奥さんや子供に非常に喜んでもらえます。今日はパチンコで楽しめなかったけれど家族の喜ぶ顔が見れたことを喜びます」

他には「前から欲しかった靴を買いに出かけます」とか「久しぶりに映画に行って観たらリラックスできる」などをギャンブルとは違ったストレス発散の方法を追加しておきます。

これもよくある勘違いなのですが・・・。ギャンブルを止めてくれといってくるご家族の中には「今日でスッパリ」「すべてを一気に」止めてくれと言ってくる人がいます。

慣習であり儀式なんですから・・・。日数も多少の費用もかかります。私に「施術費用をたっぷり払え!」という話ではなく、息抜きやストレス発散の場所として他の「何か?」を与えてから絞る必要があるのです。

これは催眠だけの話ではないですよ? 子育てとか教育でも基本です。

全部をいきなり取り上げたら反発だけが残るでしょう。うるさい親とか管理したがる上司の目を逃れて隠れてパチンコに行ったり、人の目を盗んでドカ食いしますよ?

そのまま強引に我慢させるのではなく、積極的に他の内容を追加するようにして苦痛を感じたり、マイナスののエネルギーが溜まらないように配慮します。最終的には全てのお金の流出を止める場合もありますが、全てを我慢する生き方のできる人はなかなかいません。

私たちは仙人でも神様でもありませんから・・・。多少の息抜きとか「無駄遣い」も必要でしょう。

ですから私は本人が生活において潤い(うるおい)や張り合いとしていたり。息抜きとして決められた範囲でパチンコや競馬を楽しむのはまったく悪くないと思っています。

家族が私に対し、どんなに「全てを止めてくれ」といってもやりませんよ。

ストレスになって死んじゃったらどうするんですか?

家族や恋人の意向で何もかもを一瞬で取り上げてしまう。それではあまりに本人が可哀想ですから・・・。ギャンブルは止まったものの、ストレスから入院してしまったり恋人と別れる、家族を顧みなくなったり自殺してしまったのでは本末転倒です。

生活が傾いたり借金が嵩み「このままではどうしようもなくなる」と悩んでいたり、家族の強い要望や救援要請があれば緊急措置として行うことはあります。

ただし、度を過ぎない範囲でならリスクがあっても楽しむ権利はあります。

エネルギーの矛先(方向性)を変えて、本人には「どうせお金を使うならこっちのほうがよかった」と積極的に感じさせるようにします。それには、本人の満足感や周囲の賛同、褒め言葉を最大限に利用します。

この辺りは本人の資質とか性格にもよりますけどね。貯金が趣味の人ならば貯金などに振替えます。

例えばですが、

「あなたの通帳に金額が記載されるのが嬉しい。パチンコに行くよりもその数字を眺めるほうが楽しくなります。お金が少しずつ溜まって行く実感があります」

「一旦、銀行の中に入れたら簡単にお金を下ろしたいとは考えなくなります」

といった風に行うでしょうね。

「勝てる」と思っているうちはギャンブルには通います。負けることが最初から100パーセントわかっているならギャンブルではありません。たった数パーセントであっても「勝てるかもしれない」とか「昨日の負けが取り戻せるかもしれない」といった期待感がその行動を繰り返させるのです。

ならばそこを断ち切るように暗示を行います。

期待感がなくなれば通いませんよ(笑)。最初から当たりクジの入っていない抽選になど誰も行かないでしょう? 宝くじなども同じです。当る確率は確かに低い。でも「当たった時を考えると」どうしてもそっちにイメージは片寄ります。

人間は面白いもので、一旦、手に入れた快感はなかなか手放したがらないんですよ。

「当たらないかもしれない」と思いつつも「当るかもしれない」と思うとその誘惑は強烈です。脳内に大量のドーパミンとか快楽ホルモンが分泌しますから・・・。

本人はそのスリルを味わい、当たったり勝った時を想像してドキドキしたいが為に、少々の障害や弊害には目を瞑って毎日通うようになります。

生活に支障がない程度ならそれはそれでいいのですけどね。何らかの干渉やコントロールを加えなければならない理由がありません。その行動でご本人が苦しんでいたり、生活が立ち行かなくなったり、家族や周囲に多大な迷惑をかけている場合は修正を加えたほうがいいでしょう。

それを理解した上で行動や生活習慣の一部に干渉を行い、止めたものの代わりに無理のない形でストレスの軽減や代償行為を与えて行きます。

その行為(週間や儀式)を行うことで得られる快感よりも、行わないことで得られる快感を多くしていって脳内ホルモンのバランスを整え、強烈な「快感物質」から徐々に悪習を引き剥がそうというものです。