Nobee谷口の撮影日記 / 第三章

スポンサーリンク
ゲリラ催眠in渋谷

スタッフには説明しなかった部分(217ページ)

二人組催眼誘導においてはね。どういったシチュエーション、環境においても「最初の一組が」肝心なんですよ。

一組に成功すれば後は楽になります。自分自身(施術者、この場合なら私の心理的な圧迫感もぐっと減りますし、周囲も「そういった現象があるんだ」という催眠への理解が増えます。

その男女二人組の誘導に成功した後すぐ、女性二人組の方の誘導にも成功しました。

これはね。オンエアを見た方ならわかるのですが、この人たちは一組めのカップルの誘導を行っている最中に、私がやっている内容を「後ろから見ていた」人たちなんですよ。

私は「一組目」の催眠、誘導を行っている最中に微妙に立ち位置を変化させて。野次馬にも実演が見やすくなるように配慮しています。通常のロケとか収録なら目立たないように隠すものでしょうが・・・。

私の場合は反対です。指導用のテキストでは「連鎖法」と呼ばれる手法を用いて周囲も利用しているのです。

私は友人から「後ろに目がついている」(笑)といわれるくらい周囲に目を配ります。自分の置かれている状況とか位置関係を把握しています。

これは販売業とか接客業「人を寄せる」商売、街頭販売とかデパートなどでは当たり前の話なんですが・・・。目の前のお客さんだけを見てる人は2流3流ですよ? そもそも販売員にも講師にも向いてません。

催眠誘導を行いながら「ああ、あれはカップル未満だな」とか「友達同士なんだ」とか「あの人は怖がっていそうだな」などを目の端で確認しています。

次に声をかけるターゲット探していたりタイミング計っている場合も多いんですよ。

私にとってこれは一種の習性です。職業病といってもいいでしょう。

催眠誘導や「連鎖法」において、周囲に目を配って反応を読むのは当たり前なんですよ。

飲みに行った店で催眠誘導などを行っている最中に、被験者にだけ自分の意識を集中する人は不勉強でしょう。先に紹介した「私の絡まれた実例」(笑)を参考にしてください。

隣で飲んでいる人や他の従業員、お店の経営者などもこっちを見ています。「何かおかしななことをやっているな?」と受け取られれば、当然、店から摘み出されますよ。

周囲の人たちの反応も見ながらその場の雰囲気を読み、環境や状況に配慮したり合わせることが必要になります。そうやって誘導を行わないと、その人にかけている催眠そのものも深化しません。

お店で働いている答の人が接客中に寝ていたら怒られるでしょう? 働いている本人もそれでは困るので気にします。意識がはっきりしてしまうことだって多い。ですから周囲にも配慮して冗談でも交えながら説明しておかないと失敗する原因にもなります。

私は収録そのものは初めてでしたが、ショー催眠においてはあちこちで実績がありましたから。カラオケがガンガンなってるとか人の入れ替わりの激しいキャバレーやキャバクラ、大勢が踊ってるクラブでも誘導には何度も成功を収めています。

施術者が周囲に注意していなければ、何か起こったりトラブルに見舞われた場合に対処が出来ません。状況を冷静に判断し周囲の観客の反応に気がついているから、次のリアクションも起こせるのです。

ですから私は誘導を行っている最中にも次の誘導に参加「させる」予定の被験者の表情や反応、立ち位置、周囲の反応などを必ず確認するようにしています。

放送を録画したり見た方ならわかると思いますが・・・。白いコートを着た女性が、一組めの誘導を行っている最中にチラッと雑踏の中というか後ろに映っているのがわかります。

だから、私はその後、彼女たちに催眠をかけたのです。

これは、撮影に参加したスタッフには話していませんでしたが・・・。連鎖法を積極的に利用しているんですよ。それを知らないスタッフは次々に他の場所から被験者を連れてこようとします。

実はそれでは困るんですね。私が簡単に催眠をかけているように見えるのかも知れないですが・・・。実際には違います。催眠はね、神秘の秘術ではないんですよ。

それじゃダメなんです。成功率がグッと下がるようになります。実際にこの番組でこの後、スキー場のロケなどに行きましたが、途中で成功率が落ちたのはその場所が寒かったからだけではないんですよ。

ADが「他の場所から」被験者を連れてきたり、私の行っている「他の人の誘導」を見せていない、連鎖法が発動しない条件で被験者探しを繰り返したことにあります。

潜在意識に働きかけを行うのに最も有効なのは、その現象を実際に見せてしまうことなんですよ。

顕在意識と呼ばれるものは頑丈で一種のフィルターとかロックがかかっています。本書でも散々触れましたが、その人の中身というか本質の部分は二重、三重の「心の壁」によって厳重に守られています。

それは時に「固定観念」「常識」宗教観とか育った環境、教育によって培われたものです。

全部を簡単に受け入れてしまったらパーソナリティ、つまり「自分の個性」が失われてしまう。ですから、その心理障壁という壁越しに働きかけを行ってもなかなか受け入れられることがないのです。

ですから心の扉が開くきっかけを捕まえるために、催眠にかかっている状態を他の被験者に見せる必要があるのです。そこを削ってしまうと施術者(この場合は私)最初から手順を繰り返し行わなければなりません。

どこからでも無作為に選びそのまま誘導を行うのと、現実に私が誘導しているところを見せるのとでは成功率が変わってくるんですよ。

いちいちスタッフには説明しませんでしたけどね。面倒ですしいえば理解、協力してくれるかというと、そうでもありませんから・・・。人員や予算の制約があってどう説明しても物理的にできないことはできません。

収録に時間がないことには変わりがありませんから。

連鎖法と事前催眠は、催眠をショーとして行う者にとっては最も重要なポイントです。ですが、そこを正確に理解できる一般人や業界人(テレビ局やマスコミの関係者)は少ないでしょうね。

「どうしても(事前催眠などに)時間を割け」ともいえませんし、できるだけ多くを集めて「まず、後ろの全員に催眠をかけているところを見せろ!」とも言えません。意味が理解できないから。

ネタバレを嫌がるのはマジシャンもテレビ関係者も同じですよ(笑)。ところがこと催眠においては「そのネタを見せる」勇気が必要となったりもします。

実際には省略されている手順やさりげない仕種、普通の人なら気がつかないその一瞬に重要な部分が含まれていたりしますよ? 結局は「端折る」面倒だから省こうとする手順にショートカットとか、時間の短縮、成功するための道筋が用意されていることになります。

カメラクルーは撮影、製作のプロです。自分たちの求める映像を撮るために来ています。催眠術師になりに来ている訳ではないでしょう? 私が催眠の手順や理論を説明したりこだわったところで、思うような映像が撮れないならば無駄になります。

催眼の指導の際などには、詳しく説明しますけどね。

一組めの誘導を行っている時に、後ろでそれを眺めている群集の中から、次の被験者を選んでいるんです。そうすれば成功率が上がるんですよ。ショー催眠においては基本中の基本です。

「他人が催眠にかかっている瞬間」を目撃した人には、潜在意識に強烈な印象としてその現象が残ります。本人たちは影響を受けていないつもりでも実際には違います。

もっと複雑な指示や誘導にも自然に従うようになります。

連鎖法は別に特別な方法ではないんですけどね? 

ショー催眠やステージ・ヒュプノシスに特化した人たちには当たり前の手法なんですが、個別対応が基本の「カウンセリングを主体とした」施設の先生、ダイエットやリラクゼーション、「前世催眠」? などを売りにした所だと見落とす部分でもあります。

私が連鎖法などを用い、次々に通りがかりの人に催眠誘導を行って成功して行きます。半信半疑だった撮影のスタッフの表情も、徐々に明るくなって行きます。

特に担当ディレクターの表情は一気に明るくなりましたね(笑)。

面白いのはですね、せっかく最初に別撮りまでして「Nobee(ノビー)」ってニックネームをつけたにも関わらず周囲はそうは呼ばなくなったんですよ。

「先生、先生」って盛んに呼ぶようになりました。スタッフもコーナー司会のオセロのお二人も皆で「先生」と呼ぶのには思わず笑ってしまいました。

「せっかくノビーってつけたんだから、ノビーでしよ?」と、こちらから話を振ってもすぐ「先生」に戻ります。

周囲のお気づかいには感謝します。初対面の撮影にも関わらずス夕ッフや夕レントさんがわざわざ私を先生、と呼んでくださったことは嬉しいですよ。

私はどちらかというとアウトローっていうか反逆児に近かったので、子供の頃から学校の先生とは折り合いが悪かったんですよ。今頃になって自分が「先生と呼ばれるのには何だか馴染めず、違和感があります。

ですから今も、周囲にはできる限り私を先生とは呼ばないようにお願いしています。

一般の方には理解できない人もいるようですが、私は自分の経験で得た知識や理論、手順に従って誘導を行っているに過ぎません。番組関係者には「催眠に成功するかどうかは確率の問題だ」と思い込んでそう主張している人がいましたが、それだけでは決して高確率で催眠誘導に成功することはありません。

ただの確率の問題ならどんな先生を連れてきても同じになる筈ですよ? また手順やマニュアルのみで催眼に簡単にかかるからば、録画した映像一つで事足りることになってしまいます。

施術者が集中力を高める必要がない。催眠をマニュアルだと考えていたり、簡単な手順で催眠にかかると艦隊買いする人は多いのですが、実際に催眠に成功するために必要なのは被験者の「心の動き」を表情や反応から推測、読む作業です。

その「瞬間」を見逃さずに捉えられるかどうか? が大切なのです。ですから、施術者それぞれによっても誘導の成功率が変わってきます。それぞれが独自の手順や方法を用い、相手の反応を読んで測ることになります。

私の場合、他の人よりもちょっとだけ、それを読むのが早いだけです。

催眠においてはフロックというか、偶然高い確率で催眠に成功することなどありません。そんなに簡単じゃないってば(笑)。セールスマンや営業マンでも「売ってる商品や品物」「サービスが同じ」でも売り上げはことなってくるでしょう? 同じマニュアルを与えたら結果は同じでしょうか?

話しかけの上手い人と下手な人もいますし、同じ動作、手順を行っても微妙な部分の違いから成功の確率が異なってきます。ですから、私だけが「たまたま」良い被験者に当たったのではないのです。

やはり誘導の手順や理論にも、私なりに考えた様々な工夫が凝らしてあります。

そ簡単に気がつく人なんてなかなかいませんよ。一回の収録でそれを見破ればたいしたものです。いれば喜んで弟子にしますよ(笑)。それほど感覚の鋭い人なら催眠のみならず、どんな分野に進もうといずれメキメキと頭角を現わすでしょう。観察眼に優れ突出した感性を持っています。

その後の収録において複数のADさんにお世話になりました。こちらにも都合とか仕事もありますからね。そうすると番組収録中のために「被験者集め」はそのADさんにお願いすることになります。

その中でたった一人だけ連鎖法などに気がついた人がいます。まったく何の説明もしないのに収録の際に私の考えを見事に読んで動きました。施術が見渡せる位置に必ず次の被験者を立たせるんですよ。

凄いですね(笑)。驚きました。この人が私にメールを最初に送ってきた人です。またぜひ、一緒に仕事がしたいと思った人です。そういった行動や配慮を意識せず、常日ごとから自然にやってると思いますよ?

全てを周囲に説明しないのは当たり前なんですよ。それは私の舞台裏なんですから・・・。

世の中には善意ばかりではなく悪意もあります。プロのマジシャンが「ネタバラシ」をするなら引退後でしょうね(笑)。一子相伝で弟子とか血縁者に譲るのは職人としてのプライドがあるから。

何年も研鑽してやっと身についたり思いついた技術とか知識とか経験とか「工夫」を。赤の他人、それもそういった技術や知識を悪用して金儲けをしようだとか、自分が発案者であるかのように振る舞う人に教えたい技術者は社会に存在しない、と思います。