Nobee谷口の撮影日記 / 第三章

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ゲリラ催眠in渋谷

いっそ立ったままで!?(210ページ)

マイクロバス現地についてみれば、すぐに問題が生じました。ロケバスが一箇所に止められないんですよ。

地方の方ではおわかりでないと思いますが、渋谷はいつも無茶苦茶混んでいる上に人が多い。まあ、裏を返せばだから番組ロケなどもそこでやろうとするわけですが。人が少なければインタビューも被験者集めも難しい。

法規制が進んで許可をとることが難しくなる前は、ロケをやるなら渋谷って時期があったのです。

ただその交通量、通行人や観光客の量は半端じやありません。

ADが必死で走り回って駐車スぺースを何とか確保しましたが・・・。とてもじゃないが一箇所に長くロケバスを停めておける状況ではないんです。

運が悪いというか、たまたまアメリカのクリントン大統領の来日が近かったせいで大勢警官が出てました。テロ警戒のための警察が警備と交通整理に当たっているという最悪の状況です。

アメリカの大統領だったクリントン氏はニュース23でTBSと独占インタビューの話が進んでいましたので、こちらの番組とも無関係ではなかったのですが。赤坂から渋谷にかけては厳戒態勢になっていました。

最初、打ち合わせを行った際にはね、路上で私とオセロのお二人が通行人に話しかけ、反応がいい人を見つけたらロケバスの中に連れ込んで深い催眠をかける予定でした。

それでも十分、難しいんですよ(笑)。その条件で他の催眠の先生は「できるわけがない」と全員が断って帰ったくらいですから。

ところがね。どう考えてもその方法では収録が間に合いそうもないんです。

ロケバスは移動を強いられるでしょう? 一箇所に停めていると警察に怒られますから。仕方ないので周囲をグルグルと回っています。

ですから一々、無線でロケバスを呼び出して位置を確認する必要がある。ロケバスを停めて位置を確認してその場所まで被験者を連れて行ってたら時間がかかって間に合いそうもない。

これは催眠のみなりませんが、収録というのはともかく手間と時間がかかります。

とっさに私は考えました。

(ええい、仕方がない。面倒だし立ったままでやろう!)

無理に無理を重ねるとはこのことでしょうね。街頭で初対面の相手に、それも立ったままで催眠をかけて深化させてしまおうといった殆ど超能力の世界(笑)。

とっさの思いつきだったんですよ。その方法で成功すると最初から計算してやった訳ではありません。このままではお蔵入りになってしまう。物理的に催眠を行う時間やスペースが確保できないならその手法しかない。

今までにも立ったままで誘導を行った経験はありましたから・・・。それしか方法が思いつかなかったんです。

スタッフも初めての撮影で戸惑っています。ここで私が最初に打ち合わせをした手順にこだわり「ここまでロケバスを呼べ。椅子や静かな環境、場所がないとできない」と言ってしまえば打ち切りになるでしょう。

プロならば結果を残せてプロです。出来ないなら引き受ける意味がない。何としてでもここで結果を残し、収録を成功させてしまおうと考えた。

突発事故とかイレギュラーとかよくあります。イベントとか講演(公演)でも打ち合わせと違うとか、予定とは異なるトラブルが起こることはある。セールスや営業、水商売の世界なんてもっと酷いですよ(笑)。相手の無理難題とか勝手な気分で振り回されることもありますから。

それでも成績を残すしかないんです。突発事故やトラブルですから、ここで辞めて帰っても私の責任ではない。ただし、無理を押して大阪から出てきた意味もなくなってしまう。

散々反対したり「出来ない」と言い張った他の先生方が、それみたことかと笑うでしょうね(笑)。

ここまで考えるのにだいたいニ、三分です。クヨクヨしていたり、まごついている時間などない。

(ええい、いったれ!)

が正直な感想でした。

全員がロケバスを降りスタンバイしてから一組目の被験者を見つけ、話しかけ始めるまでが五、六分くらいですかね? すでに台本なんて何の役にも立っていません。

考えていたり、迷っているような暇などないですよ。ここからはすべてがアドリブです。

捉まえたのは二人組だったんですが、そのうちの一人を選び出しその場で私がいきなり催眠を深化させ誘導します。全体のにかかった所要時間はほんの数分に過ぎません。

一般人の被験者に「声をかけて身柄を確保」したらすぐ誘導にかかります。なんせ立ったままですから、悠長なことはやってられないんですよ。

催眠をかけている私が拍子抜けするくらい、あっさりと一組目の誘導に成功しました。

多少、特殊な方法を用いていますけどね。一般に行われる催眠の手法や凝視法などでは時間がかかって成功しません。時間がかかり過ぎて撮影や収録には不向きでしょう。

よほど催眠に詳しく本格的にやっている方でも、私がこの際の用いた手法について正確にわかる人は少ない思います。普通に話しかけ普通に近づいて、いきなり催眠に成功しているように見えると思いますよ。

私が指導を行っているお医者さんなどには一部、方法と理論を教えていますが一般の方には必要がないでしょうね。私と付き合っている友人や知り合いには「そんな方法は他人に絶対に教えるな」「そんな奴が増えたら社会の迷惑だ」と怒られたりしましたから・・・。慎んでいます。

教えたからすぐにできるといった代物でもないんですけどね? 私にしても自身の体調が優れないとか被験者の反応を見逃すと、失敗する難しさを伴っています。

まあ、そういわれればそうですね。こんな奴ばかりが増えたら確かに社会には迷惑かもしれません。そういった部分の解説についてはフィクションで描く「小説のネタ」にでもすることにします。

最初は失敗を恐れ若くて反応の良さそうな男女の二人組にしたんですよ。その中から女性を選びました。男性ではなく女性を選んだのは、そのほうが絵的にいいかなーっと思っただけです。

催眠に「かかるかどうか?」の反応はどちらも殆ど同じくらいだったんですけどね。

かけている最中のまぶたの瞬きの回数や身体に触れた瞬間の反応で、その被験者にどの程度まで催眠がかかっているかがわかります。やはり経験と勘ですね。短時間でも多少はわかるものです。

被験者が深層催眠にまで移行したな、と判断してからその女性に「あなたの目の前にいる男性があなたの彼氏です」といった暗示を用います。

事前に確認してましたが、二人の実際の関係はただの友人です。その上で催眠をかけて「目の前にいる人はあなたの彼氏」で、目が覚めると「彼氏に抱きつきたくなる」って暗示を追加したんですよ。

目を覚まさせた後「ホラ、あなたの目の前にいる人が彼氏です」と言って後ろから私か手を叩きます。私が手を叩く音がキーとなって実際のリアクションを起こすきっかけとなります。

するとアーラ不思議、彼女の身体はご自分の意思とは関係なくスーッと男性の身体のほうに近づいて倒れ込んでゆく。身を任せるように男性にくっつくようになったのです。