ええい、いったれ!
確かに撮影にプレッシャーはあり成功するかどうかはわかりませんでしたが、別にそれでディレクターに殺される訳ではないでしょ?
少なくとも以前に経験した色々な事より気は楽かもしれません。
今になって振り返ってみれば当時、様々な場面において誘導に成功したのは、技術以前に単純に「度胸」や気力の問題でしょうね。
ほんの少しでも怖がったり嫌がると態度や表情ににじみます。
それを抑えることができたから成功したんだろうと思います。
初出演のロケの場所は渋谷になりました。
直前までロケの場所すらも教えてくれませんでしたよ。教えると何か仕込むとでも疑われたのでしょうか?
ロケバスに乗って、いきなり現地に行ってそのまま撮影です。
おまけにタイトルは「ゲリラ催眠」(笑)。
今なら放送禁止でしょう。オウム事件や自爆テロなどの騒動が起きる以前でしたからまだ通ったのでしょうね。
オープニングを近くの公園で撮った後、渋谷の雑踏の中でロケのスタートです。バスを降りてすぐにカップルなどを掴まえ、その場で催眠をかけます。
事前の打ち合わせではロケバスの中に被験者を連れてきて、バスの中で催眠をかける約束だったんですけどね(笑)。渋谷は込み合いますからロケバスが道に横付けできなかった。バスのサイズも大きいですし、あいにくと警察が路駐の取り締まりやってました。
やり始めてわかったのは
こりゃー、時間が足らんわ・・・。
です。
渋谷ってね、車の通りが多いから一箇所にずっと車止められません。不可能なんですよ。おまけにその日はたまたまクリントン(アメリカの大統領)が来日してまして、異様な警備体勢になっていました。
そのクリントンを呼んで会談をやったのがよりによって出演しているTBSです。ディレクターや関係者としても、そういった時期に警察とのトラブルは避けたい所でしょう。
車を一箇所に止めてられませんから、被験者を掴まえてもロケバスまで連れて行けない。時間がかかるのです。すぐにそれに気が付きました。
咄嗟(とっさ)に私はこう考えました。
立ったままでやろう!
無茶苦茶ですよ(笑)。
普通は椅子くらいは用意する。最初はロケバスに連れ込んでの誘導、事前催眠やテストを行う予定でした。
無理に無理を重ねるとはこのことですね。ただでさえ難しいシュチェーションなのに、雑踏の中で立ったままで催眠誘導を行い、おまけに警備の警察官の目を盗んで撮影をやって騒ぎにならないうちに撮影してとっとと撤収しようって事です。
「ええい、いったれ!」
面倒くさいから。一々、考えてる暇なんてない。
まあ私も営業やセールス、接客業の出身ですから。現場ってのは色々あるものなんですよ。予定通りにスケジュールが進まないとか突発事故、相手の都合に振り回されるなんてことはよくあることです。
その場その場で考えて柔軟にやらないとできることなんてない。対人関係とか仕事ってのは生き物ですから。この状態ではできません、と突っ撥ねて帰ったとしても得るものなんてないでしょう?
どんな状況下でも「やってやれないことは無いだろ」ってのは成功した後だから言えるんですけどね。
私は殆どの職業の人の催眠かけた経験があるんですよね。先にあげた「危ない職業」の方だけではなく、格闘家、自衛官、警察官、検察官、裁判官、医者、タレント。
自営業、学生に水商売、一部上場の会社社長はもちろん、女性、男性、年令を問わず、幅広く、誘導を行った経験があります。
歌手もありますしねー。あと経験がないのは、アナウンサーくらいかな?
立ったままで催眠をかけるってのをやったのは、さすがにこの時が最初です。
それでも催眠にはかかる
深化するんですよね(笑)その状況でも。
催眠には見事にかかる。誰もが「不可能だ!」と思う事が可能になった一瞬です。
その後、「それでも成功する」とわかってから、当たり前のように外でロケやったり講演(公演も含む)でかけるようになりました。
雪山で遭難しそうな状態でも夏場で汗がダラダラ流れる現場でも成功した。
皆が息を飲むのがわかり面白かった。私は多少、緊張はしてましたが、これは催眠をかける際にはいつも感じる程度のプレッシャーでしたね。
それも一組ではなく、全部で8組ほどの誘導に成功しました。
私にすれば掴まえたカップルの内のどちらかに催眠誘導に成功すればいいんです。成功の比率から考えれば、まだ気が楽だったんですが・・・。
そういった舞台裏にはスタッフは気がつきません。
催眠を解説する本においては「催眠誘導に成功し、深層催眠に移行するのは全体の15~20%に過ぎない」と書かれている物が殆どです。その言葉を信じるならば、催眠の成功率は良くて三割程度ですから、それから考えれば異様な確率の高さになります。
10組くらいを掴まえて、8組がかかるとすれば幾ら何でもおかしいと思うでしょ?
撮影中、ディレクターはホクホク顔をしていました。たぶん、珍しい映像が撮れたと経験的にわかったからでしょう。私も含め催眠が通り掛かりの人にかかるかどうか、良い映像が撮れるかどうかは、事前にはまったく確証がなかったんですから・・・。
一部種明かしをしますとね、私が直接被験者を見てかける相手を選んでいる所にミソがあります。
忙しいからといって、AD(アシスタントディレクター)に任せて無作為に被験者を集めると、成功率はガタッと落ちます。
急速催眠などに用いる特別な方法も用いていますが、被験者をどう選ぶか? が重要なポイントになります。被験者選びはどうしても自分でやらなければなりません。
経験が物を言う。一旦、表情変化や反応さえ起こればこっちのモンです。
番組を見ていない方もいらっしゃるでしょうからここで解説すると、何を聞かれても「ガッテンダ!」と返事をするようになったり、「アッ!」と言われて足下を指差されると犬のウンチを踏んでしまったように感じたり。
彼女に手を振られると、本当は前に進みたいのにどんどん後ろに下がってしまうような暗示を行いました。
台本にあったものもありますけどね。現場でアドリブで決めたものもあります。
放送されなかったものにも面白い物があったんですけどね。シェーってポーズをとったり、カトちゃんペって相手に指をくっつけたり。
大胆にばっさりカットされていました(笑)。散々苦労したのに。
テレビカメラがあればかかる、のではない
結果だけから考えれば、通りがかりの人にいきなり何の説明もせずに催眠誘導を行っても「催眠にはかかる」と言えます。
流石にある程度、最低限の条件は必要になりますよ。よほど寒いとか風がビュービュー吹いているとか雨が降っているなどでは難しいでしょう。
ま、それでも過去に何度も成功はしているのですが・・・。
後になってウチのサイトにメールを送り付けてくる人で「あれは、テレビカメラがあったから催眠にかかったんだ!」と言い貼る愚かな人もいました。
それだけの理由で全ての人がしっかり催眠にかかるならば、他の先生が出演を断ったりしませんよ(笑)。
カメラさえ背負っていれば、催眠術師には燦然(さんぜん)と後光が差すのでしょうから。
便利な話ですね。そういった主張をする人はマスコミを異様に崇拝、信奉していてカメラさえあったら、「相手がどんな事でもしてくれる」と本気で思い込んでいるのでしょう。
出演を断って帰った先生には催眠の世界ではかなり有名(だった)人も含まれます。
求められている内容が難しいから引き受けない。知名度があればそれが普通でしょうね。
催眠を使って自分が有名になりたくて仕方ない人がいっぱいいますよ? あちこちのホームページや掲示板をみればわかると思います。立派な煽り文句や素晴らしい? 肩書き、妙なリンクや所属団体が、所狭しと並べてあるホームページやブログがあるでしょ?
そういった人をこっそり遠くから眺めてみたり、面談してみると笑いますよ。たいていは派手なのは看板だけで中身はありませんから。
会話すらきちんとできない人もたくさんいます。
自身では「催眠の実力者」だと誇りますが、会えば薄っぺらな人で「催眠が、催眠の、催眠で」と九官鳥のように同じ言葉ばかり繰り返す人もいます。
練習者や被験者に対し、催眠の話しかできない人はやはり二流でしょう(笑)。大学の教授や学校の先生でも同じです。
つまらない講義や授業になるのは「人物としての面白み、深み」がなくて話に「広がり」がないから。専門職で自分が関係することは深く知っていて当たり前ですが、それ以外にも人柄とか話術とか経験を含む「その人の厚み」が、とても重要になるのです。
雰囲気や表情、時には経験や年齢までを含めて、相手には印象として伝わります。
このサイトのセールスの話においても触れていますが、営業や販売、仕事において「出来る人」は上手に雑談を挟みます。
いわば自分の得意分野の話は小出しにして無関係な話が並ぶのです。たわいのない世間話をはさみながら徐々に自分のフィールド、得意な分野へと話を誘導し最後に決着を図ります。
相手の興味を反らさないためには起承転結(きしょうてんけつ)が話の流れには必要で、途中でどう話が転がっても「結びの部分」までを上手に行える人が話術巧者(わじゅつこうしゃ)と呼ばれます。