小声がポイント!
賢明な読者の方はもうおわかりだと思いますが、相手の注意を惹き付け、「心」をわしづかみ(?)にするには小声で話すことがポイントになります。
これも一般の方が陥りやすい過ちですが、大声で話せば話すほど実際には心と身体の距離は開くのです。大声を張り上げて恫喝すれば、それで聴衆やお客さんが納得する訳ではありません。
自分の意思を明確に相手に伝えなければと焦ったり、ともかく高圧的に声を張り上げ、身振り手振りを大げさにして話す人がいますが、現実にはそれは逆効果です。
いわゆるアジ・テーションとかヒトラーが戦前に行ったような街頭演説では意味がありますよ?
マイクの設備が弱かったり、周囲に雑音が多くて聞き取りにくい状況の場合、大声が必要となる場合もあります。
大きな身振り手振りが男らしさの象徴だと考えられていた時代もあり、そういった古い時代に書かれた文献や知識を元に書かれた心理学? の本にはそのような行為を推奨するものすらあります。
確かに身振り手振りを大げさにすることで得られる視覚効果もあります。
が、こと販売とか少人数を相手にする場合には不必要です。
日本の政治家が街頭演説や応援演説で「咽を枯らして」いるのは、ご本人が「興奮して」声を張り上げてしまうせいもありますが、拡声器やマイクを通した声では迫力や印象が伝わらず、対抗馬に選挙や演説で負けてしまう例があるからですね。
彼らはそれを体感的に知っているので肉声を使いたがります。自分の声で聴衆に直接的に訴えかける必要があると思っているのでどうしても声を荒げます。
政策の中身とか話の内容だけで済むなら、拡声器どころかカセットテープを繰り返して流すだけで済みます。ところが、それではなかなか一般大衆の反応が得られない。肉声と録音では印象が異なってくる。ですのでスケジュールが大変なのに無理をしてでも、自身が出張ってきて大声を出します。
恋人と親密な内容を話す時、また、友人や家族、会社の同僚と話す際、内緒の話は声のトーンを下げ、周囲に聞こえないように話しますよね?
これは周囲にバリヤーを張り巡らせるようなもので、意識を集中しないと廻りに聞こえない空間を意図的に作り上げているのです。意識して周囲とは孤立した環境を作り出していることになります。
相手との距離を縮めて特定の相手とだけ情報を交換、意思の疎通を確認することで、お互いの信頼感や親密感、心の距離を近づける効果があります。下記を参照してください。
► パーソナルスペース 心と身体の距離
「大きい声」と「普通の声」「小さい声」や身振り手振りと「特別な情報」(例えば、奥さんにだけこっそり値引きします、など)を折り交えて話をすることで、相手との「心の距離」を一気に縮めることができます。
これを時々、無意識に行っている女性(ホステスさん)や男性もいますが。
あら、○○さんお久しぶり。
上手な人を見ると私は思わず「うまい!」と唸ってしまいます。
声の抑揚(よくよう)とか強弱、小声は使い方によっては素晴らしい効果を発揮するからです。
ただし、殆どは経験で徐々に身に付いた方です。知識として蓄えた上で考えて実践している人は少数ででしょうね。やってみればわかりますが意外に難しいんですよ。
これを無意識でサラッと行える人はある種の天才でしょうね。
だから「やれ!」って言われてもねー?
どんな現象にも「後付けであれば」解説はできます。
他人の販売方法とか誰かが行った手法を外から眺めて批判したり勝手に評価するのは簡単。
ただし、それを知識として知っているというのと、それから実践して「実際の売り上げにつなげる」というのでは天と地ほどの違いがあります。
私も当時、色々と試してみたのですが、なかなかうまく行きませんでした。
知識として理解することと実際に行うのとでは違ってくるのです。
これまでに自分が行ってきた販売手法とは手順が違い過ぎるからでしょうね(笑)。
「ボソボソおじさん」のやり方は、やはり特異であり異質な方法ではありますから・・・。
言っておきますがその時点でも私の売り上げが低かった訳ではない。むしろ、同年代の販売員からは突出していた側です。私はそれまで顧客の視線を「追う」ことで販売の実績を作ってきていました。
その私がそういった販売方法に手を出すってことはですね、これまでに勉強してきたことや慣れた手法を一切、全部捨てなければならなくなります。
これには参りました。
私としては相手の「視線」が追えないことは、とても緊張と不安を伴う行為になります。
私は「顧客の表情を読む」のは下手ではないんです。下手ではないからこそ、これまで様々な仕事でうまくやってこれたのですから(笑)。
この手法で行おうというのは相手の視線を「まったく読まない、見ないで操る」ようなものです。
やはり難しいでしょう。目を瞑って車やバイクの運転をやるような感覚ですね。
まして相手は物ではなく人です。「ボソボソおじさん」のように最初から最後まで殆ど相手と目を合わせないなど、神業というか一種の奇蹟のように感じます。
私自身はそれに対する違和感が取り除けませんでした。
何度か試してみましたが、結果、一か八かのような賭けのような販売になってしまいました(笑)。
大きいのも当てましたがムラがあり過ぎます。結局は安定しない。
常に大きいのばかり狙うと他がおろそかになりますので、かえって販売実績は伸びませんでした。
私なりのオリジナルへ発展
こんなことができるか〜ぃ!
ってのが、色々挑戦してみての感想でした。
やはり「餅は餅屋」といいますか、芸術や音楽のようなものです。
他人の技術をそっくりそのまま、物まねするのは難しいですね。その人を見ているとまるでマジックのようです。
私、買うわ!
と、たまたま通り掛かっただけの顧客が決然と言って、財布を取り出すシーンは何度みても唖然(あぜん)となります。
私と同じく販売員であったり、接客業出身者であればわかるはずです。高額商品を通りがかりのお客さんが「お金を払って買う」という行為は、やはり凄いプレッシャーなんですよ。
ハードルは高い。
高額な商品を購入する場合には支払いを行うお客さんも緊張しますが、商品を「売っている側」も緊張するのです。
その場に立ち合い、高額な商品を「一瞬で」即決、販売する姿はやはり感動というか新鮮な驚きがあります。
後で考えてみれば、私個人の全体の売り上げとか販売数では決して「ボソボソおじさん」に負けていなかったのですが・・・。
やっぱりインパクトの問題ですね。
新しいものとか不思議な手法を見れば注目します、意識もします。プロの販売員が他人の販売方法を見て驚く、というのはやはり少ない。憧れがあったのです。
できればあやかりたいと思って、かなり勉強しました。
ただ、当時私が所属していたメーカー(宝飾品の会社)は、主力商品が30万から50万くらいまででした。当然、その「ボソボソおじさん」とはお客さんの年齢層や商品層、価格帯が異なります。
一日に一発限りで「高額品を1個だけ売ってしまえ!」という販売方法は通じず、どちらかというとコンスタントにある程度の個数をまとめなければなりません。
もっと金額の安い商品(千円均一など)ならば、大声を張り上げてお客さんを集め、販売することもできますが、この価格帯の商品はあまり大声を張り上げることもできないのです。
勢いがあって景気はいいのですが、商品が安っぽく感じてしまいますから・・・。
デパートから叱られるんですよ(笑)。
一発勝負ではダメで高級商品ですから売り場で大声張り上げることもダメ。印象が悪くなります。個数は売らなければならないが、決して安物を売っているのではない。
数十万はお客さんからすれば大金です。
その相反するものを両立するのが難しい。
そこで私は自分なりに知恵を絞り、「ボソボソおじさん」とはまた違った販売方法を思いついたのでした。