接触法(パス)(53ページ)
私からすれば被験者に「どう近付いて、どう話しかけるか?」の時点で、実際には殆どの決着はすでについてしまっているように感じます。
私が催眠術師のひとりごとの中で「瞬間催眠や急速催眠はありますよ」といっているのは、数多くの誘導を行った自分の経験、知識の裏打ちから生まれたものです。
このテキストでは、あえて瞬間催眠などについての解説は行いません。長くなりますし、それだけでもう一冊、テキストが書き上がってしまいますから。
ここではパーソナルスペースとラポール、そしてパスとが密接に繋がりがあり、そしてそのそれぞれが催眠と無関係ではない、というニュアンスだけを受け取ってください。
それらをきちんと踏まえた上で、これから説明を行う可倒テストなどを行えば、初心者であっても催眠誘導の成功率は格段に上がります。
困るのはパスについてテキストで解説を加えたり練習会で説明を行うと、被験者にやたらとベタベタ触れば信頼感が増すんだ、などといった勘違いをする人が出ることです。
セクハラ、という言葉がありますが、セクハラを繰り返している(行っている)人の中には、相手が嫌がる行為を自分が繰り返しており、嫌な感覚を誰かに押し付けていることにまったく気がつかない人がいます。
そういった人の多くは「相手が笑っているから」平気なんだ、とか「相手が逃げない、怒らないから」それでいいんだ、と考え、一方的に相手を追い詰め、困らせてしまいます。
どこかに飲みに行ってとか遊びにいって、同僚やアルバイトで働いて女性にベタベタ触る男がいますが、同じようなものですね。今どきの女性に、それを我慢して優しくしてくれる人は少ないでしょう。それじゃ、嫌われますし下手すれば訴訟沙汰です。ストーカー扱いで通報されますよ?
誰しも「嫌なものは嫌」なんですよ。そういった行為を繰り返す人は、相手が「嫌だけど何らかの事情で」我慢しようとしてくれている事に気がつきません。
そういった間違った感覚が普段から身についている人の場合、催眠において接触法(パス)などを覚えることはかえってトラブルの種にしかならないでしょう。
残念ながら正しく利用し実践することは非常に困難なので、私としても教えたくはないんですよね。
相手(被験者)は、その人の行動に慣れ慣れしいと感じて嫌がったり、ベタベタ触られてうっとおしいと感じ、催眠どころか「この人には二度と会いたくない!」といった感覚を生みます。
医療催眠などにおいては接触法は用いないように、と指導している所もあります。
これは、パス(接触法)は確かに効果も高く、被験者との信頼感を作り上げることにも用いられますが、使い方を誤ってしまうと反対に誤解を招く場合もあり、一旦トラブルになってしまうと修復が不可能になるからです。
医者としての信頼を損なう可能性もあり、それくらいなら最初から被験者にはまったく触れず、対話方だけで(NLP法、エリクソンメソッドなどが代表)トランス状態を作り出そうと考えるグループもいます。
そのどちらもが間違いではありません。私としてもトラブルを避けるために場合によっては接触法を用いない場合もあります。特に女性の場合、変に勘違いする人や過敏な人もいますよ?
ほんの一瞬でも警戒される場合もありますから相手によっては配慮が必要です。
ビデオや写真を参考に練習してください。確かに私は被験者に軽く触れるようにしていますが、身体のどこかを掴んで振り回したり強い身体への接触は行わず、力が抜けた時とかこちらの支えやサポートが必要となった時だけ接触するだけに留めています。
おそらくですが、他の催眠をやってる先生、特にテレビ番組などに出ていた人たちと比較するとかなり軽いというか出来る限り、身体的な接触は避けているタイプかもしれないですね。
相手に信頼してもらえる距離(パーソナルスペース)に入ることが重要で、接触は「付加(おまけ)」に過ぎない、と私は考えています。
一連の動作を自然に行い、被験者が不快感や嫌悪感を感じないように近付くことに意味があります。それを施術側が意図的に何度か繰り返し、パソナルスペース内に「出たり、入ったり」をすることで、親近感や信頼度を増すようにします。
ビデオにおいて、私が時々被験者の身体や背中に手を当てて支えているのは、安心感や信頼感を増すためだと考えてください。私も意図してそういった行動を行っている、というよりは、基本に忠実に施術や実演をやっているうちに身についた、というのが真相でしょう。
私は過去に接客業がメインで飲食店の経営に携わったりセールスとか営業もやっていました。それだけではなく荒っぽい肉体労働や格闘技も経験があります。
中には身体が一瞬触れただけで怒り始めるお客さんとか危ない筋の方もいましたよ? そういった人たちを怒らせないように上手く付き合おうとか現場を回そうと思うと表情や反応を読むのは速くなります。
近づいてはいけない距離もありますが、腹を括って近づかないと信頼を得られない場合もあります。その見切りが出来るようになるには、一件でも多く経験して慣れるしかありませんね。
言葉でいう程簡単ではありませんが、各自で練習してみてください。