Steins;Gate – シュタインズゲート –

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こりゃ凄い、と唸った作品です

STEINS;GATE Vol.9【通常版】 [DVD]こういう作品を「佳作」(かさく)と言うべきでしょうかね?

佳作(かさく)というと、大賞を逃した作品とか入賞に次ぐ作品のように勘違いする人も出ますが・・・。

本来の意味での「佳作」とは、マスコミとか世間に大きく注目をされたり騒がれてはいないが、とても優秀な作品、優れた内容という意味に使われます。

そういった意味でシュタインズゲートには極めて、似つかわしい言葉だと思います。

もっとも、私は原作を読んでいません。

メディアミックスとして構成され、漫画と小説があるようです。元はXbox用ゲームが原案だとか。

どちらかというと文章から入る私としては珍しいのですが、今回はアニメの論評です。

新しく書こうとしている小説の構想を練ってたんですが、やはり古い話としてだけではなく現代風にアレンジもしたいですし、続編を考えるなら新しい言い回しとか言葉遣い、服装や流行しているものについては把握する必要も出てきます。

DVDを複数取り寄せて、ネットでも動画を見つけていくつか見てみたんですが、特に印象に残った数作品について感想を書こうと思いました。

この作品では、主人公である岡部 倫太郎(おかべ りんたろう)が、事件に巻き込まれ、自分の幼馴染である女性、椎名 まゆり(しいな まゆり)を救おうとする話です。

こう書くとサスペンスのようですが、主軸にはタイムトラベルの話が置かれており、基本的には近未来SFと考えればわかりやすいでしょう。

LABO(ラボ)と彼が呼んでいる研究所(実際にはアパートの一室)に集まるラボメン(メンバー)を中心に物語は展開してゆきます。

主人公は外見はともかく、精神的にかなり幼い。いわゆるネットでは「中二病」と呼ばれがちな青年です。

要するに妄想とか妄言とか誰かが聞いたら赤面しそうな設定話をしてしまう人で、「繋がってもいない」携帯電話で組織と戦う話をしていたりします。

アニメを見始めた当初はかなり我慢を強いられます。

まあ、私ももう若くはないですからね(笑)。2ちゃん用語とかネット用語と言われるものが連発するアニメとか漫画には、それなりに抵抗もありますし観るのが苦痛だったりもします。

伏線をしっかり張り、後に回収する

ですが、これは我慢する価値はありますよ。

中盤以降の展開が素晴らしい。

ネタバレというか、物語のストーリーを詳細に追ってしまうと中身が全部、わかってしまうので面白くなくなるでしょう。ですので、こういった表現に止めます。

この作品の何が凄いかというと、伏線の張り方です。

一番最初、つまり一話目の冒頭の時点からしっかりとした伏線を張ってあります。伏線というのは、後のシーンのための布石としてさりげなく描かれるものと考えてください。

ミステリーなどでは特に真相をとくためのヒントとなる物、例えば人物とかセリフとか「証拠品」を置き、結果を暗示させることを言うものです。

良質なミステリーにおいて、読者に何らかの「結果」を推理をさせるためには、読者とか観る側に「未来に繋がる」何らかの情報なり材料を、事前に提供しておく必要があります。

この「事前に」というのが難しいのです。

料理で言えば素材ですね。様々な場所に素材や材料、人員を配置し、それを後で回収する。回収後に「それらを全部」ひとまとめにして料理し、しっかりとした味付けをする必要があるのです。

ここでこういった言葉にするのは簡単ですけどね(笑)。

物語とかシナリオが長期になる場合、伏線を丁寧に張って、それを後で回収するというのは大変なことです。いきあたりばったりになってしまったり、せっかく張った「伏線」をしっかり回収することが出来ず、放置したままになったり、全体の印象が散漫になってしまうこともよくあります。

アニメや漫画などでは時折、あるでしょ? いきなり兄弟が増えたり、死んだはずの人間が生き返ったり、脈絡もなく「主人公や重要キャラクターが」双子になってしまったり、息子が登場するっていうのが?

この作品においては、そういった不自然な部分は殆ど存在しません。

事前に丁寧な設定、つまり「伏線」として兄弟や仲間が存在することを匂わせたり、どこかにイラストなり文章として登場人物や未来像が描かれていれば、ストーリー展開に違和感は覚えません。読者、視聴者は自然に馴染むのです。

ところが、そういった下準備とか設定をまったく行わないままに物語が進行してしまい、後になってバタバタする作品もあります。

途中で人気が出てきた小説なり漫画を延命させるために、強引に後付けで設定を増やしてしまうこともあります。

残念ですが、最近のアニメや漫画ではこの手のものが結構あります。

主人公の成長、心の変化、恋愛などを描く

いわゆる中二病、妄想癖のある狂気のマッドサイエンティストのように振る舞う主人公、岡部倫太郎、別名「鳳凰院凶真」(ほうおういん きょうま)が、時間の拘束、宿命に逆らいながら懸命に愛する仲間や幼なじみ、自らを含む「思い」を救おうと奔走する話です。

一見、支離滅裂で中身のない、でたらめな行動をとっているようにも思える主人公が、優しさからついた嘘とか、誰かを守るために創り上げた設定があり、彼の支離滅裂にも思える言動に思いやりがあることが、徐々にストーリー内で表現されてゆきます。

どうしても届かない、変更できない未来がある。それを知った上でも彼は諦めることなく、足掻き続けるのです。

途中、残虐にも思えるシーンとか悲惨な場面も混ざりますが、これは子供たちにも見せてもいいのではないか? と私は思います。

最近はまあ、過激な表現とか残虐なシーンが入っているアニメとか漫画、ゲームを規制しようとする動きも加速していますけどね。

私個人としては全てを規制してしまうことには反対です。

理由は簡単で、社会はそんなに平等でも平和でもないから。

不況もあって自殺者も増えています。通勤や通学途中で自殺を目撃してしまう人だっている。東日本大震災で身内や親族、仲間や友達を亡くす人だっている。

リストラやいじめ、オヤジ狩りとか浮浪者攻撃なんてものもある。どこかから見たり聞いたりを含めれば、友人や知人、家族に凄惨な体験者は大勢いることになります。

そういったものの「直接の目撃者」にならなくとも、今や高度情報化社会です。情報や映像、写真は世界に氾濫しており、観る気になれば誰だって凄まじい写真や映像にぶつかることになります。

だからこそ、全てを伏せて隠蔽するのではなく、強いメッセージ性を持った映像とか写真、文章とか文学、アニメなどは「多少は」残して触れさせたほうがいい、と思っています。

きちんとストーリー性があってね。観る人に「何かを伝えたい」と思って作られた作品にはね。幾つか残虐シーンが入ったとしても「それだけの作品」では終わらないと思いますよ。

大人が隠蔽して伏せたものほど、子供たちは興味を持って漁ったりもします。隠したものをみつけた、と思うと大人たちをズルイように錯覚しがちです。

大人が隠すからこそ、子供たちも大人に隠れて探してしまう。結果としてそれは陰湿な行為、集団でのいじめや虐待などにも発達しやすいと、私は思うからです。

全てをオープンにする必要はないですが、全てを制限してしまうのも間違い。アニメや漫画、ゲームや小説、映像に「多少の」余白というか、子供たちにも触れ合ったり観る機会は残すべきだと思っています。

大切な「誰か?」を守ろうとし、誰かを徐々に好きになり、仲間も失いたくないと願う。無力な自分を罵り、それでも諦めたくないと足掻き、懸命に走り続けようとする主人公の姿があります。

ストーリー展開もそれぞれのキャラクターも、見応えがありました。

こういった作品を観て感動した中高生なら、安易ないじめとか暴力行為に加担ばかりはしなくなるのではないか? とちょっと考えたりなんかして(笑)。

まあ、私のそういった考えに甘い部分があるのは否定しませんが。

たかが一本のアニメとか漫画で、人の何かが大きく変わる、とは思ってはいけないのかもしれません。

ですが、実際に何らかの作品に感動してアニメ作家や漫画家になったり、映像を撮るようになったり、優秀な作家や実業家、研究者を目指した実例もたくさんあるのです。

アニメの主人公である岡部 倫太郎(おかべ りんたろう)や、主要キャラの一人である牧瀬 紅莉栖(まきせ くりす)、橋田 至(はしだ いたる)をみて、研究者や開発者に憧れる人がいてもおかしくはないんじゃないかな? と思ったりもします。

音楽もオープニングの映像も良かった

主題歌もオープニング映像も気に入りました。このアニメのため書き下ろしたんでしょうかね? 久しぶりに楽曲に聞き入ってしまいました。

「一秒ごとに、世界線を超えて、君のその笑顔、守りたいのさ」

なんてセリフは、アニメのストーリー展開に合わせた作詞に感じて素晴らしかった。全文を何度も読み返してみましたが「すげー、作詞家だな」と私個人は思いました。

これはなかなか書けるもんではない。短い文章の中にきちんとアニメの世界観がある。最近の歌謡曲とかポップスで作詞に感動したり感心するのは本当に珍しいと思います。

作者は志倉千代丸さんというらしいですが・・・。

Steins;Gate – シュタインズゲート -も、オープニングテーマである「Hacking to the Gate」も、アニメファン、ゲームファンの方にはメジャー過ぎて当たり前の作品なのかもしれませんが、私のサイトを訪れる年配層とか子供を持つご家庭の方に向けて、今回はこの作品を紹介しておきます。

私としてはここ数年でみたことのあるアニメとしては一番の点数をつけたいですね。

残虐シーンや過激な場面も「あえて」外さなかったこと。その上で相手を思いやる気持ち、誰かを助けようと奔走する主人公や主要キャラクターの姿をしっかり描いたこと。

ごく初期の頃からきちんと伏線を張り、殆ど一つも落とすことなく丁寧に拾い上げ、最後の最後まで手抜きをしなかったこと。ならびに悲惨なままで物語を終わらせることなく、全ての登場人物やストーリーに「救い」のある話として仕上げたこと。

これらを総合として考えた時、非常に完成度の高い作品だと思います。

元がゲームだからですかね? ゲームの場合は「いきあたりばったり」は難しくなります。エンディングが用意されていないゲームなんてのはありませんから。

エンディングがきちんと決まってからでないとストーリー展開やシナリオは描けない。となると、先に骨組みというか柱となるメインストーリーと「結論」を用意することを迫られます。

これはまあ、スタッフの熱意というか関係者の努力の賜物でしょう。

キャラクターを考えた人、ストーリー展開を考えた脚本家や作家、監督や声優、作詞家、作曲家、歌手も含めて全員が丁寧に仕事を作り込んでいった結果だと思われます。何か一つの歯車でも狂えばうまくいかなかったでしょう。

たまに歳をとった作家とか評論家が、日本の新しい文学作品とか若い世代をあからさまに馬鹿にしたりしてますが・・・。

十分に新しい才能が育ってるんじゃないですかね? こんな作品はそうそう簡単にはできない。昔とは表現方法が異なってはいますが、素晴らしい才能の集まりだと私は思います。

作詞、作曲、音楽、キャラクターデザイン、ストーリー展開までを含めて一つにまとめ上げる作業はそんなに簡単ではないでしょう。原作の持つ世界観やゲームとの統合性を失わないままに、一つのアニメストーリーとして仕上げるのは至難の技です。

ライトノベルとかでも面白い作品はいっぱいありますよ? それらを元にアニメ化されたり漫画化されたり、ゲーム化されているものにも良いものはあります。

アニメだから漫画だから、と、安易に食わず嫌いになるのではなく、評論家や作家、マスコミの批判を鵜呑みにするのではなく、多くの作品に触れ合った上でご自身で何かを選びましょう。

それこそが、新たな才能を育てるのでしょうから・・・。

2012年03月20日

谷口信行

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