昔の武家社会
余談ですが、日本人は長く握手の習慣を持ちませんでした。
武家の社会を中心に発展した江戸時代では、相手に「手をとられる」事は禁物だったのです。
私も剣道や空手、合気道をやったことがありますが日本では「抜き打ち」と言いまして。いきなり刀を抜き放って斬りつける行為をそう表現しました。
今も「抜き打ちテスト」などの言葉などで残されています。
「鞘走り」という言葉も残されていますが、居合いなどの概念や戦法、戦術がありましたので。
相手を油断させておいて一瞬で抜き打ちにするとか斬り殺せるだけの技量を持った武人や侍がいたもので。隙を見せないように「利き手は絶対に相手に任せない」習慣があったそうです。
手を取られただけで投げられたり、対処する反応が遅れることになりましたから・・・。
面白いことに仲がいい人と再開して挨拶する時は「井げた」を組んだそうで・・・。
興味がある方は調べてください。
二本の手を複雑に組んで握手の代わりにしたのですが、お互いがお互いの腕を握りあっています。それだと抜き打ちは出来ませんし、いきなり切りつけられることがない。
その形だと投技に持っていけないし、刀が絶対に抜けないのです。それくらい用心深かったんですね。
「手の内を見せる」とのことわざがありますが、手の平の内側を見せることは手の方向、すなわち抜き打ちの刀の方向性を見抜かれることであり、武士としては恥だったのです。
結果、手の平は軽く握り、視線を合わせずに頭を下げる習慣が生まれます。
相手の目をみないでお辞儀をするのもそういった頃の名残りです。上役であったり、お殿様と目線を合わせる事が不敬だとされた時代も長かったので、日本人はお辞儀の際、自然に目を伏せます。
剣道をやっていた方なら習っていると思いますが、視線で自分の意図や覚悟を読まれたり、先制攻撃する時の「方向」が読まれたりすることがあります。
視線を合わせないのは相手を敬っていたり、へりくだる意味ばかりではないんですよ。
殺気とか「これから斬りつける方向」自分の手の内を見せないために視線にまで、普段から気をつけていたというのが真相でしょう。視線から敵意や感情を読み取られないよう配慮してました。
旗本以上でないと将軍様には会えなかったので「お目見え、お目通り」という言葉も存在しますが、日本は挨拶の際に自分の視線に細心の注意を払います。
武士として目を合わせるのは自分の覚悟を晒すことを意味します。目を合わせた時点から戦闘が始まっており「抜き打ち」つまり、相手の隙や反応を伺う行為だとも受け取られたのです。
ですからよほど親しくなったり、特別に許された人以外は目を合わせませんでした。
ハリウッドの捉える日本人「もどき」が不自然なのは、相手の顔、それも目を見ながら頭を下げてヘラヘラ笑うからですね(笑)。日本人ならああいったお辞儀はしません。
悪気はないのでしょうが日本人を馬鹿にしているようにも見えます。
武家の社会がそうなのですから、町人の世界も似たような習慣や気質を持ちます。
武士に迂闊に近寄れば斬られますからね。刀で斬り合いをする戦闘方法が高度に発達した日本においては、相手との「剣の間合い」から遠ざかり「斬り合いを避ける」距離感が重要だったのでしょう。
日本では男女が外で手を繋いで歩くことも許されていませんでしたし、礼法として「相手の身体に直接触る」ことは失礼だともされていました。
街角でお互いの服や身体、刀が触れただけで大喧嘩になった実例も数多く記録されています。
他人との距離、すなわち「パーソナルスペースが」広いんですよ。袖触れ合うも他生の縁(そでふれあうもたしょうのえん)ということわざもありますが・・・。
それは「相手との距離を空ける」習慣があったので、直接的な接触が珍しかったことを意味します。侍同士なら刀が当たっただけで斬り合いになりかねません。
鞘当て(さやあて)という語源はそれが元になっているくらいです。
そういった時代が数百年間も長く続いたので、日本人のパーソナルスペースも「自然に広くなったのではないか?」が私の推論です。
心の中の壁、パーソナルスペースの利用方法
日本人にとって手や肩が「直接触れる」距離とは、相手との特別な関係を差します。
すなわち、恋人や親しい友人、家族などがその範疇に入ります。
少なくとも始めて会って話をしただけ人は、自分にとって「特別」な関係には当たりません。
「親しい友人や仲の良い人家族」と、「ただの知り合い」とは距離が明確に違うのです。
ですから自分のサークル(パーソナルスペースを円で囲ったもの)に入り込んでくる人は、自分に危害を加える者、敵として認識しやすいのです。
エレベーターに乗り込んできただけの彼等は、別に私に意図的に近づこうとした訳ではありません。普段通りにエレベーターを利用しただけでしょうね。
ただ外見が日本人に近いアジア人でした。大阪ですので中国系か韓国系かもしれないですね。
距離感が近い。彼等を見て私の方が勝手に勘違いし、緊張して身構えることになっただけですね。
一見、他人との間に垣根を作っている、不便な距離のように見えるパーソナルスペースですが、実は便利な利用方法があります。
ビジネスや恋愛、また生活において相手の本心が知りたいと考えたことはありませんか?
私はありますよ(笑)。相手が自分のことをどう思っているのかについては「知りたい」と思う方が殆どでしょう。廻りが自分のことをどんな目で見ているのか? は、どんな人でも多少は気になる所です。
恋愛や仕事、家庭生活や学校において自分が相手に嫌われているのか、それとも好意を持たれているのか? にまったく興味がない人はよほど自分に自信があるか、何事にも頓着しない人だけでしょう。
ビジネスにおいては得意先の動向、上司や部下の感情は把握しておきたいでしょうし、これから口説こうとか好きになってもらいたい相手の気持ちを知りたいのは当然だと思います。
パーソナルスペースを用いれば、相手の心の簡単な判別が可能だったりします。
あなた自身を参考にして下さい。
誰かが近寄ってきた際、「無意識に」スーッと身体が後ろに下がったことはありませんか?
嫌いな上司だったり、苦手な同僚、うっとおしい異性であったり、何かでトラブルなっている相手の場合、自然に身体が引いてしまい「いけない!」と思ったことはなかったでしょうか?
電車の中でワンカップ飲んでる人がいたら? ひとりごとをブツブツとつぶやいている人がいたらどうでしょう?
ご本人が我慢しようと思っても、数センチ、あるいは数十センチ、相手の近寄ってきた方向とは逆の方向に身体が下がってしまうことがあります(笑)。
これは心理的な反射行動、自分を守るための自然な防御反応ですので、意識してもなかなか止められません。
相手がこちらに近づいてくる前に何らかの予兆や予備動作があれば別ですが、相手が咄嗟(とっさ)にそのような行動に出てきた場合、たいていの人は勝手に身体が反応してしまいます。
「嫌な奴がきた!」と心が感じる取る余裕があれば、ある程度はそれに対処できます。身体というより「心」とか「経験」がそれに備えるからです。
予備動作とか視界に入っていたら。嫌な奴が近づいても演技で誤魔化すことだってできますよ(笑)。
ですが突発的な「出会い」の場合には、よほどのトレーニングを積んだ方でなければ身体の反応、心を含んだ反射行動はどうしても起こってしまいます。
プロには凄い人もいる
私は過去に様々なアルバイト、職種を経験しています。自分で飲食店の経営をやっていたこともあり、接客業の傍ら相手を観察するのが趣味でした。
その趣味が高じて心理学やマーケティングの基礎を学び、カウンセリングや心理相談が職業となっています。
これは余談ですが、私がこれまでに付き合いのあった新地や銀座などの一流と呼ばれるホステスさん、京都などの売れっ子の芸者さんなどのなかには嫌いな客だと思うとスーッと近づく人がいます。
これが見ていて、とても面白いんですよ。
私は普段の会話から、その人(お客さん)が露骨に嫌われているのを知っていますが、彼女達はそんな素振りは「おくびにも」出しゃしません(笑)。
凄いでしょ? これはホステスさんや芸子さんの優れた知恵です。
嫌がって離れて座ったりすると、接客態度にそれが滲んでお客さんに気づかれます。
これは合コンの席順、座り位置の話とも繋がっています。
► パーソナルスペースの補足、席順の選び方
嫌って離れた位置、対面(たいめん、麻雀ではトイメンと言います)に座ってしまうと、自分の様子を観察されます。お客さん側から反応を読みやすくなるので不利なんですよね(笑)。
相手に気がつかれれば指名が減りますし、なんせ相手はお金持ちですので余計な嫌がらせをされてしまう可能性だってあります。店側としても何とか繋ぎ止めておきたい。
自分が首になってしまったら困りますから。
ですから、嫌な客であればあるほど「あ~ら、◯◯さん。久しぶりね」といいながら真横とか真正面に座り顔を近づけます。手でわざと相手の顔とか身体を触ったり、足に軽く触れたりもある。
嫌っているからこそ、親近感を持っているかのような行動に出ますしあえて遠くに座らないのです。
なるほどなぁ。
と感心しました。
そうすれば相手の動きが視線に入りますから(笑)。相手の予期せぬ動作にも驚かずに対処できます。
近くに座ったほうが自分の表情を読まれにくくなるのです。
かなり勇気はいる手法でしょうが、プロとしての知恵であり技術です。自分が露骨に嫌がっていることを逆手にとって近場に座って反応を読み取り、うまくやってる訳ですね。
これは学校や会社などでも応用が効きますよ。
時折、居るでしょう? 上司や学校の先生のもっとも近く、教壇の下で居眠りしているような奴が(笑)。
要するにパーソナルスペース内にいることで視野角に入ってないのです。相手も安心したり油断しますから。
自分に視線が向いたり、意識を向けられた時だけ「ウンウン」とそれらしく頷いていますが、実際には何にも聞いていなかったり、相手に何かを察知されることを巧みに避けている場合もあります。
前出のホステスさんや芸者さんのような人達はそうやってパーソナルスペースに入り、相手の気持ちを引きつけておいてから上手に席を外します。
相手を嫌っていない、嫌だと思っていない証明? を一定期間行ってから他の席へと移るのです。
私も以前は飲食店でマネージャーや黒服やってましたからね(笑)。
あちらで他のお客さんが呼んでますから。
とウエイターや店の女将、ママに言わせて一旦、席を外すのですが
◯◯さん、またすぐに戻ってくるから。
と朗らか(ほがらか)に笑って本心を隠すでしょう。