2018/12/11改訂
1997/06/00初稿
心と身体の距離の不思議
以前に住んでいた場所で戸惑ったことがありました。もうあれから何年経ったでしょうか?
私は大阪に住んでいたことがありまして西成区の近くといえばわかる方もいるでしょうか?
当時は生活苦でお金も土地勘もなくて。「ちょっとガラが悪くてもいいですか?」と言われたのですが。不動産業者の勧める通りその辺りで一番安かった賃貸マンションを借りたのです。
8畳一間のワンルーム。家賃は安かったのですが新築で。一階にコインランドリーもあって、気ままな一人暮らしの私はそれなりに楽しくやっていました。
ある日、いつものように自分の借りていたマンションのエレベーターに乗り6Fから1Fへと向かって降りていました。
すると、途中の3階あたりでドアが開き見知らぬ男性が二人、エレベーターに乗り込んできました。
思わず私は
こいつら、なんだ?
と身構えました。
当時、借りていたマンションは、あまり安全な地域とは言えませんでした。
よくいえば下町、悪くいえばガラの悪い地域です。
漫画の「じゃりんこチエ」のモデルになった街です。
大阪では有数?の危険地帯でしょうか?
襲われるんじゃないか、と私はとっさに身の危険を感じたのです。身体が身構えてしまい神経が高ぶったのですが、すぐ実はそうではないことがわかりました。
エレベーターに乗ってきた二人が違う国の言葉で話し始めたからです。どうやら韓国語のようです。見た目は日本人と似ていたのでわからなかったのですが、外国の方のようでした。
彼等が母国語で会話をしなければ見分けがつかず、わからない所でした。
二人が私に「スーッと」と近づいてきたために、私が勘違いしたのです。
後で考えてみると、なぜ私がそういった勘違いをしたのかに気づきました。
他人との心の距離、パーソナルスペース
皆さんは「パーソナル スペース」という言葉をご存じでしょうか?
耳慣れない言葉かもしれませんが簡単にいうと、自分と他人との間にできる空間のことです。
電車などに乗った際、また映画などを観にいった時でも構いませんが、場内に入ってきた人はよほど特殊な習慣や性質を持っていない限り、座っている人のすぐ隣に席を取ろうとはしません。
通常、隣の人とは一つか二つ席を開けて座ります。電車などでは両端の席が開いていればそこからまず埋り、次に真ん中が埋まります。隣の人とは幾らか空間を空けた上で徐々に席は埋って行くものでいきなり、赤の他人と密着する例はほぼありません。
心理学の実験として各国で検証が行われているのですが。どこの国でも似たパターンになります。席が空いているなら誰かの隣にはいきなり座らない。
電車だと利便性の高い出入り口周辺が先に埋まって、バスだと一番奥か先頭が埋まります。次が中央ですがパラパラと散って座り、その後、密接する近い距離の席が埋まってゆくのです。
日本では特にその傾向が強いですね。
席が空いているのに女性の隣に座るなどの行動をとれば、痴漢か強盗と間違われかねません(笑)。場合によっては警戒され、大声を上げられることもあるかも。
誰しも赤の他人とはあまり近づきたくないものです。その人がどんな人であるのかわかりませんから。ある程度、相手の人柄とか状況、せめて雰囲気が把握できるまで近寄って欲しくないのです。
情報が無いままにあまりに近い距離に近づいてしまうと、それはそのまま自分が危険に近づくことを意味します。特に座っていれば身動きがとれません。
乗り物と狭いエレベーターの中では危機回避のために警戒心が働くこととなります。
直接的な危害を加えられることを避けたいからです。相手に捕まってしまう距離というのは心理的なプレッシャーになります。無意識のうちに距離を計り、逃げられる、もしくは自分が防御できるだけの「心の余裕」をスペースとして置こうとするのです。
それがパーソナルスペース、つまりお互いの立ち位置や座り位置、空間となって現れます。
日本人は対人との距離、「空間」が大きい
当時(私が大阪に住んでいたのは1995年頃です)はまだ外国人、それもアジア系の人達が一般人のマンションに住むケースが珍しかったんですよ。
ただし、私が住んでいた西成とか天王寺区や鶴橋方面には出稼ぎ労働者がいました。
もちろんシェアハウスなんて洒落た感覚や概念はなくて(笑)。中国系、韓国系の人も自分たちだけで部屋を借りて住んでました。その数も決して多かったわけではないので目立たなかった。
おまけに私は四国で育っていますので・・・。私が育った時代には地方都市でアジア系住人を見かけるほうが珍しかったですね。
近くに住んでるどころか、観光客でも見たことがなかった。
彼等(エレベーターに乗ってきた二人組)に私が恐怖を感じたのは、彼等の距離(パーソナル スペース)が、日本人と違っててかなり「近い」たために違和感があり、戸惑いを感じたからです。
日本人はボディランゲージ(握手や肩を叩く、相手の身体に軽く触れるなど)が下手だと言われています。若い世代のなかには気軽にそういった行動や表現をする人達もいますが、全体的にはまだ少なく、照れや気恥ずかしさが先に立ちます。
あまりにも親しげで相手にベタベタ触ると馴れ馴れしいとの印象を生むことがあり、上下関係にうるさい日本の職場などでは嫌がられるかもしれないですね。
体育会系の人はボディタッチや近い位置に立つことにも慣れています。ご本人とか上司は親しくなろうとしての行動かもしれないですが、今はセクハラやパワハラでの問題もあります。
かえってそのような行為が軋轢(あつれき)になることもありますから・・・。
日本人のパーソナルスペースは、他の欧米人やアジアの人達に比べ大きい(広い)のです。
欧米の映画などで当り前のように行われる行動パターンである友人や家族、恋人と肩を組んだり、腕を組んで歩いたり表でキスをしたりという習慣が日本にはあまりありません。
一部の若者にはそういった感覚を持つ人達も現れているようですが、自然にというよりは欧米の映画や文化に刺激されて意図的にそう行っている部分もあるのでしょう。
年配層の中にそういったものに抵抗を持つ人がいる以上、定着するには時間がかかりそうですね。
欧米の若い人達が日本人に対し「シャイだ」とか「自分から近づいてこない」とかいった感想を持つのも、長年の習慣や文化の違いがあるのです。
知人とか知りあいとはいえ、いきなり近づいてくる人間に対して日本人は「馴れ馴れしい」などと感じやすく、欧米人は「フランクだ」とか「親しみやすい人物だ」と受け取る傾向があります。
欧米と日本の分かり易い習慣の違いは「握手」と「お辞儀」ですね。