催眠術師のひとりごと / 第二章

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育った環境と初代引田天功への憧れ

当時のスーパ—スタ—たち(45ページ)

スポーツカー アイコン私が催眠に興味を持つようになった直接のきっかけは、子供の頃に見たテレビ番組でしょうね。

当時、初代引田天功さん(今のプリンセス天功さんとは別人です)といわれる方がテレビ番組で活躍されていました。

若い世代の方には馴染みのない話かもしれません。当時の彼の人気は凄まじいものがありました。テレビ番組ではゴールデンタイムに何度も登場し、大脱出などのコーナーをやっていましたので、私より上の世代、40〜50歳代の方ならご存じの方も大勢いらっしゃるかもしれません。

いわゆるマジシャンでありエンターティナーであり、舞台でショーを行う人としては当時の日本の第一人者になります。

先にも少し触れましたが、私はちょっと特殊な頭の構造をしていますから変に記憶力が良かったりします。自分が2歳程度の頃からの記憶が明確に残っています。自分が興味を持つた内容は、余計にはっきりと記憶してしまい、何年経っても忘れられなくなります。

ですから、私は子供の頃に見た出来事やテレビ番組についても割としっかりとした記憶があり、それはまるでフイルムか切り抜いてきた映像のようにスライド状態になって私の記憶の中で保管、管理されています。

時々、その引き出しから知識や記憶がひょっこり出てきます。何かのきっかけで、仕舞ってある内容が覗くことがあるのです。

私の記憶の中では、引田天功さんがテレビ番組の舞台で当時の人気絶頂のアイドルであった、森晶子さんや山ロ百恵さん(知らない若い方はお父さん、お母さんに聞いて下さいね)といった当時のスター達に次々と催眠をかけるシーンが展開されていたのを覚えています。

今でいえば、安室奈美恵さんのような方でしょうか? SPEEDとかMAXとか。(あれ?沖縄出身者ばっかり?)当時、人気と実力があり、広く社会に認知されていた人たちです。

私は山ロ百恵さんが好きだったんですよ。ステージで山ロ百恵さんが催眠にかけられ、大きな入れ物の中に入ったたくさんのコインの中から十円玉と一円玉を取り出し、それを選り分けるシーンがありました。

術者(初代引田天功さん)がコインを瓶に入れる度に笑ったり、悲しい顔をするように山ロ百恵さんに指示されたんですよね。実際に彼女がそのように動き、悲しそうな顔をされるのを見て子供心にも凄い! と思った記憶があります。

ちょっとボーッとしたようにも見える催眠中の被験者(催眠にかかっている人を指します)の独特な表情が、その頃の私の頭の中には強く印象として残っています。

その番組で、コマーシャルに移る直前、森晶子さんに司会者がコメントを求めました。すると森晶子さんが「催眠術にかけられてしまう。助けてー」と、カメラに向かって涙目で語っていたのを覚えています。

本当に困った顔をされていたんですよね。泣きそうなというか、悲しそうなというか、複雑な表情です。目が潤んでいましたから演技ではなく本当に嫌だったり恐いんだろうな、と感じました。

でも、その後(コマーシャルの後)に引田天功さんがまた同じように、彼女に催眠をかけ始めると、元のようなボーッとした目と表情に戻り、同じような不思議な行動を取り始めるのです。

あれだけ嫌がっていたり怖がっていたのに、なんでなんだろう? と強烈に思ったのを今も鮮明に覚えています。

その当時、私は小学校の低学年ですからね。まさか将来、自分が催眠を勉強し、誰かにかけるようになったり、催眠でテレビ番組に出る、またお医者さんなどに催眠の実技指導を行ったり、誰かに催眠を用いたカウンセリングを行うようになるなどとは思いもよりませんでした。

当時、胸をときめかせながらその番組を見たものです。やはりテレビの影響は大きいですね。もっともそういった番組は、親がなかなか見せてくれませんでしたけどね。やはり子供には早すぎるというか、刺激が強いと判断したんでしょう。親が見ているのを時々、垣間見る程度です。

学校に行っても私と同じく、見せて見貰えなかった同級生がいっぱいいました(笑)。

同級生の間でも「昨日の番組見たか?スッゲーよな。あれ、本当かな?」と話題になっていました。時々しか見れなかったそういった番組を子供たちが明確に覚えて騒いでいるってことは、引田天功というエンターティナー行う現象を見て受けたインパクトが、いかに大きいものであったかの証明ですね。

今となっては遠い日の思い出です。ですが、「谷ロさんはなぜ、催眠に興味を持ったのですか?」といわれると、どうしても思い出されるのはあの頃の光景なんですよね。

ステージに上がったスターたちの催眠にかかった時の表情。普段の彼女たちとはまったく違った反応と雰囲気。初代引田天功が鮮やかに言葉で相手を自由に操っているように見える光景。

催眠にかかった人の持つ独特の空気感、そしてそれを見て驚く人たち。

当時の私には「催眠は恐い」といった感覚はありませんでした。不思議で凄いもので、何か日常とはまったくかけ離れた印象を受け取ったのです。凄い衝撃がありました。

もっとも子供らしく、その後、しばらくは催眠についてはコロッと忘れていましたけどね。新たにそういった内容に興味が湧き、自分で調べてみるようになったのは中学校になった頃からです。

私の両親の仲が悪くなった頃から、段々、催眠や心理学に傾倒していったのはある意味では皮肉な話なのかもしれません。

両親が仲の良かった小学生の頃に、お茶の間(今はリビングっていうのかな?)で家族揃って食事をしながら、引田天功さんなどのショーをテレビ番組で見ました。

やはり幸せであった頃の記憧と共に、私の中には催眠に関する映像と印象が残っているのでしょう。しばらく興味が遠ざかっていたのに、後になってやはり催眠に興味を持ったのは、無意識のうちにお互いの心が離ればなれになってしまった両親の心や気持ちを取り戻したいと考えたのかもしれませんね。

引田天功が颯爽(さっそう)と現れて、パチンッと指を鳴らせば全てが元に戻るのではないか? と望んでいたのかもしれません。苦笑いするのはテレビ出演以後、私にそういった依頼が現実として舞い込むことですかね?

催眠といえばそういったものだと思っている人も大勢いますから・・・。

まあ当時の私は「そんなことはあり得ない」のも知っていたと思いますよ。そこまで子供ではありませんでしたし、覚めた部分を持つ子供でしたから。無理なことは何をやっても無理だと漠然と理解していました。

単純に家に帰りたくなかっただけかもしれません。図書館にいれば時間を忘れました。その間は家には帰らずに済みましたからね。自宅に帰って母親と言い争いにならずに済みました。

いまだに私が普段のカウンセリングとはまったく関係のないテレビ番組で催眼を行ったり、他人が(催眠にかかって)驚くところを私が見たがるのは、あの頃の印象が強く残っているのかもしれません。

当時の引田天功さんの人気は本当に凄かったんです。

小学校の五、六年の頃でしょうか? 私にとってのヒーローだった彼は突然、テレビから姿を消しました。なぜか? は詳しくはわかりません。当時、子供であった私は朧げにしかそれを知らないからです。

大人に混じって、時々番組を見ていただけに過ぎないですからね。どういった事情でお出にならなくなったのか知りたいというか、調べてみたいなとは思ったことがありますけどね。

奇しくも、その後、催眠などを仕事で行うようになりましたから。

私の記憶と照らし合わせてみたいので、当時のVTRなどがあれば見てみたいと興味を持っています。ですが、私は当時の事情について殆ど知らないんです。後になって親に引田天功さんが病気か怪我で亡くなったと聞いた時は、それはショックでした。

彼は、私にとってのヒーローそのものでしたから。