暗示の内容とかけ方の手順
彼にかけた暗示は次の通りです。
これは当時の担当ディレクターの希望と言うか、意向です。見て「面白い」物でないと視聴者にはわかりのくいので、目隠しとするようにしてその行動を見てみようって内容です。
事前には何のテストもやってませんからね。当然、リハーサルもなしです(笑)。まあ、私にすれば催眠で事前にリハーサルをやるのも変な気がしますが。
事前に「彼女が彼の行動を」見たら、びっくりしないと思うんですよ。
要するにリアクションがとれない。素人ですから・・・。
一般の人はいきなり現象を見せるしかないんです。
催眠を行っている先生によっては、実際に「被験者がどのように動くか?」の徹底したリハーサルをやる方もいるそうです。これは撮影の際にテレビ局の関係者に教えて貰ったんですけどね。
被験者とその彼女は「現象を一度」見ていることになる。それだとお芝居でしょう?
演出というよりは演技になってしまう。私はやらせやインチキがやりたくて催眠を学んだわけではないので・・・。人の驚く顔を見るのは好きですが、視聴者や参加者を騙して喜ぶ趣味はないんです。
自分で鍛えた技術や腕を確認したい。わがままですが、それが私の思いがあっての参加です。そこを失えばこれまで関わってきた理由がないですから・・・。
超大物芸人との共演とか有名番組からのオーファーも、催眠現象を八百長とかインチキ、演技で誤魔化してくれという依頼の場合は全て断ってきています。
演技で済むなら催眠術師はいらない。それこそ大手芸能事務所の所属のお笑いタレントや役者を使えば済むでしょう?
催眠術の番組が増えていないのはそれだけ実演が難しいことを意味します。入念に打ち合わせとリハをやれば失敗が少なくなりますが新鮮さも無くなる。演者も参加者も表情にそれが滲むことになるでしょう。
「なーんだ、やっぱり仕込みなんだ」という雰囲気になります。
それでは面白い映像にはなりません。
彼(被験者)が、ディレクターの思惑通りに動くかどうかはわかりませんが、とりあえず、その暗示を与え、強化しました。二つ目は
って暗示です(笑)。
この二つ目の暗示に関しては、彼女の意向が十分に反映されています。事前に「どんなことをしたい?」って聞いた時に彼女が彼に「優しくキス(?)して欲しい」って言ったので、そういった内容になりました。
今なら絶対に放送できませんね(笑)。コンプライアンス違反で自治体の条例違反。
できれば、幸せそうな内容を希望(笑)
放送日がクリスマスに近かったんですよ。ですからやはりカップル向けと言うか、幸せそうに見える内容にしましょう、って話になりました。
私も幸せな内容のほうが好きですしね。
後から考えるとこの辺りまでが出演して楽しかった頃ですねー。誰も傷付かず、楽しい内容でしたから(笑)。
テレビ番組ってインパクト求めて、どんどん無理な要求出すんですよ。これがとても大変です。
どこの番組でも同じです。視聴者に飽きられることを恐れるので、どんどん間違った方向というか、衝撃力を求めて走り出してしまって戻れなくなります。
番組側の気持ちや立場はわかりますが、何かあった際に恨まれるのは私ですからね。事故を予防するのはプロとして参加するものの勤めです。
残念なことに、一連の番組に出た直後から嫌がらせや勧誘メールを送ってきたり、ウチのサイトの安易なモノマネや丸パクリ、ネットでの誹謗中傷も増えました。
この当時は特に酷かったですね。わざわざホームページや掲示板を自分で立ち上げて「最低の番組だ!」などと書き込んだ奴もいます。
成り代わりや自作自演の簡単なネットにおいてはトラブルもたくさんあります。
まだネットに慣れている人が少なかった。Twitterやネット炎上などという言葉も無かったですし。そういった書き込みを真に受けて追従する人もいましたよ?
ネットの黎明期で基礎知識に欠ける人達も多かったですから。
今だから種明かししておきますが、それは番組に出たかった他の「催眠術師」(笑)のしわざです。誰がやってたかもわかっています。ウチにも執拗にメールを送りつけてた連中が何人かいますから。
正直、哀しいことも嫌なこともたくさんありましたね。現場では必死に被験者や一般の人達を庇ってるのに、見ているだけの人にはわからない。
ただ数字が欲しいだけのディレクターやプロデューサーに無茶を言われることもあって。会社の事務所に直接、電話がかかってきて「ヤラセをやってくれ」って堂々と申し込まれたこともあります。
断ると「あんた、本当にテレビ番組に出てたのか?」って捨て台詞を吐いて電話が切れています。事情や状況を知らない下っ端の番組ADだと思いますが・・・。
もう終了していますが「笑っ○いいとも」って番組でした(笑)。私の代わりに別の催眠術師が出ています。
ゴールデンでコーナー持ってからもそんなものでした。
そういった事情を知らない一般人とか、私と過去にたった数回面識のあるだけの人が酷いメール送り付けてくる事もありましたね(笑)。「あなたがそんな人だとは思わなかった」とか「あなたのそんな姿は見たくない」だとか「あなたは変わってしまった」だとか。
私自身が裸になるとか、どこかから飛び降りるなどの恥や危険を背負うならともかく、一般人の参加者や被験者、それも若い世代に無理ばかりさせられませんよ。
企画としては難しいのですが、できるならばやっぱり皆が幸せになる内容がいいですね。強引なのとか無理やりなのではなく、面白くてちょっと不思議に思える映像、現象がいい。
どんな煽りだろうと内容さえ凄ければ数字がとれるってのは制作側の錯覚、驕りですよ。幸せそうでない映像は怖がられるだけです。催眠ならば尚更そうだと思います。
元に戻しとけって?
撮影を始める前に、また難しい注文を受けました。ディレクターがまず、
彼を元に戻しておいて下さい。
って言ったんです。
この頃、番組の収録に参加してディレクターによく言われたのは、「絵的に面白くない」とのことでした。そんなもの、素人にわかるはずもない。テレビ関係者やスタッフ、ディレクターの考える「面白いもの」と、催眠術師として訪れた私には明確な温度差があります。
映像としての対比が欲しいので、まず、彼に普段通りにナンパして貰ってその様子を撮影します。
その後で催眠でリアクションを起こしてナンパするたびに「目隠しをする」映像を納めたい。だからせっかくかけた催眠を「一旦解け」と言ってるわけですね。
それは番組側の都合であって(笑)。私とか彼(被験者)の都合ではない。絵的に面白くしたいから「催眠を解け」と言われても。その後、瞬間でかかるとか簡単にかけ直せるって保証がない。
そもそもに必要な時間や場所すら確保できていないんですから。
それをディレクターに説明しても、おそらく理解できないでしょう。
手順とか手続きとか「下準備」ってのは本職にしかわかりません。その職業や技術に携わる人にとっては大切な準備でもそれに直接関わっていない人にはわからない。
「その程度は我慢しとけ」とか「どうせそこは映らない」とも言うでしょう。
私も接客業とか販売業が長かったですから。現場の空気や雰囲気は読めるわけです。くどくど説明するよりも「ぶっつけ本番でやってしまえ」に傾いていきました。
一般の人とか視聴者は要するに「映像」しか見てないのです。最近は映像だけでは弱いので相手に情報を受け取らせるためにテロップをつけて効果音をつけて、笑い声まで被せてます。
そこまでやってもインパクトに乏しい映像もあります。分かり易い映像、はっきりした形での比較対象が欲しいのですね。
確かに意図はわかるんですけどねー。それならば先に言って欲しかった(笑)。
なぜならば催眠を深化させるのも時間がかかったり難しかったりするから。解くなら解くで手順もありますし、後で同じ効果が得られるとは限らない。暗示を行う順番にもよるんですよ。
で、仕方ないので「催眠を解いて」元に戻し、まず彼が普通にナンパするシーンを撮影しました。ロケバスを止めて、少し離れた所から、彼の姿を追います。
すでに暗くなりつつあったのに、画面(ロカバスの中にモニターがある)で見ると真昼のような明るさです。その画面に、彼の姿がくっきりと映っています。
私とタレントさん(オセロのお二人)と、彼と付き合っている高校生の彼女はロケバスに残って彼の行動をモニターでチェックしました。