ほんの少しばかりのお手伝いを
彼女はかなり自分の年齢のことで悩んでいるようでした。
20代後半でそろそろ30代にさし掛かろうとしています。
不思議なものですね。
日本の女性は30代になることを異様に気にします。海外ではそこまで神経質な人は少ないと思いますよ? 結婚適齢期なんて表現もあまりしません。
その言葉そのものがセクハラ、パワハラ(Power Harassment)になってしまいますから(笑)。
この相談者の女性は見た目はかなり若く美人でスタイルも良いのですが・・・。
もうすぐ30代になることで強い不安に陥ったようです。
この男性と別れたら、次の交際相手や結婚対象見つからないのではないかという不安から、ここ数年はかなり無理を重ねてきたように感じられました。
結果として交際期間が伸びてしまい、8年が経過したのだと思います、
どうもその彼というのがあまり良い人とは言えないようで・・・。浮気相手の女性ばかりではなく、彼女自身からも多額の借金があるようでした。
下手をすると付き合っている女性全員に同じ話をして誤魔化している可能性がある。
10年経過しているあちらの女性にも「他に付き合っている女性がいる」「あっちは単なるスポンサーだ」と話しているのではないでしょうかね?
話を聴いているとあまりに状況がかわいそうな気がしたので、少しばかりお手伝いをさせて頂きました。
彼女に自信がつき、同じ相手と同じ失敗を繰り返さないように、本来は行わないある暗示を追加しておきました。
あなたは年齢よりも若く見える。
これは見た目の印象のままなので、私の言葉に嘘偽りは一切ありません。
あなたはとてもステキで異性から見ても魅力的な女性に見える。
という暗示と
あなたが今までの彼と同じくらい誰かに愛情を注ぐなら、きっと今まで以上にあなたを大切にしてくれる男性が現われますよ。
という言葉を老婆心ながら追加しておいたのです。
これは私本来の心情や立場、スタイルには反します。
私自身は被験者の環境や状況、背景の把握に勤めることが多くて積極的な介入は行わないのが普通なんです。
どちらかというと私は厳しすぎるというか、少々頑な(かたくな、頑固)なまでにこのルールを守っています。
ですが、今回だけは特別に少しだけ介入を行いました。
この方が優しい女性で、誰かを信じ支えようと頑張ってきて精一杯の姿、心情を表に出せなかった苦しみに思いを馳せました。
と同時に、やっと少しだけ自分の本心を表に出してくれて「私を信頼して」催眠中に泣いてくださったことに感謝し、彼女に少しくらいのプレゼントや応援は許される範囲ではないか? と思ったからですね。
カラオケボックスでの誘導でしたので、相談者の友人にも立ち会って戴いています。
心配そうにみつめている彼女の友人、わざわざ私を紹介してくれた知人のためにも、少しでも相談者である彼女が安らぐ方向、勇気をもてる方向に導こうかと考えました。
「あーぁ、気持ちよかった!」
興味深いのは、このあと催眠から目を覚ました彼女の第一声です。
彼女は起きた瞬間に大きな伸びをして
あーぁ、気持ちよかった!
と嬉しそうに笑いながら目を覚ましたのです。これはみていた私たち(特にご友人)のほうがビックリしました。
誘導を行っている最中は苦しげでした。哀しいことも話さなければならなかったですし辛さも悲しさもあったでしょう。涙を流していたくらいなんですから・・・。
ですが、そんなことはまったくなかったかのような気持ちよいお目覚めでしたね。
まるでおとぎ話で眠れる森の美女が夢から覚めた時のような感覚で、見ていた側からすればとても印象的でした。
それどころか側で心配そうに見ていた友達に
気持ちよかったわよ。あなたもやってもらったら?
と何事もなく語ったことです。
これには私もびっくりしてしまいました。
ちなみにこの時点で3時間が経過しています。
催眠にかかっている本人にとっては一瞬のことのようにに感じるのですが、実際には数時間から数日もリーディング(読み取り作業)にかかったこともあり、私(施術者)は大変ですよ。
状況によって変化しますが、心の奥底までを触る誘導は長時間に及びます。
私は毎回、へとへとですよ。
番組の収録や公演で300人くらいかけたことが何度かありますが、施術者側で」ある私も、精神的肉体的なエネルギーを消費してゆきます。
知人の医者に持ちかけて試しに体温を計れるカメラ(サーモグラフィー)で写したら、頭蓋骨の凹み、盆の窪と呼ばれる場所や眉間だけが高温で光っていました(笑)。
なんか出ているんでしょうか?
念のため彼女に催眠中のことについてどれくらい覚えているのか質問してみました。
子供の頃の遊園地の話から始まって、お父さんやお母さんの話まで、ほとんどの記憶については残っているようでした。彼女は時間のロスト(長さを失うこと)はあったようですが、意識の喪失は殆どなかったようです。
ですから説明も簡単に済みました。
ただ、面白いのは私が彼女に最後に追加した言葉だけが、彼女の記憶のなかからすっぽりと完全に消失していたことです。
応援、支援のために入れたメッセージだけがなぜか記憶から抜け落ちていました。
ああ、うまくいったんだ・・・。
と思った。
消えていた部分は彼女に私が「見た目より若く見える」といったことと、「魅力的な女性に見える」といったこと、「次の男性が必ず見つかる」といったことなどです。
この内容が表面の意識の中から「形式上は」消えていることで、私は「彼女の中に自信が芽生えるだろう」と思いました。
しばらく後で連絡を戴きました
催眠で言った内容が完全に消えてしまう訳ではありません。むしろ、表面には覗かない状態、被験者に聴けば「覚えていない」ことこそが、本人の内側に残されているのです。
目には見えない「言葉のプレゼント」ですが、心の中の残像のようなものです。
その日は誘導カウンセリングを終え、そのまま別れました。最後に双方で連絡先を教え合っただけです。携帯がそこまで普及していなかった時代なので私の個人事務所の番号を教えておきました。
しばらくして彼女を紹介してくれた友人から連絡がありました。
彼女、すっかり明るくなってね。
そのうち自分で電話して報告するつもりだけど、その前に
私からも先生にお礼いっといてくれって言われちゃった。
私はこのホームページの開設当初からずっと言ってきていますが、私は自分のことを「先生」などと呼ばれるのは好みません。
催眠はできるし知識は多少はあるが医者ではない。
そう考えれば「谷口さん」程度が適当でしょう。
講演会に行っても撮影でロケや収録に参加しても、私が自ら先生を名乗ったり相手にそう敬称をつけろと迫ったことなど一度もないですよ。
ネットでは特に多いようですが、自分を大きく見せようと肩書きや背景にこだわる人達がいます。
私の場合は少なくとも、自分が「先生」と呼ばれるためにこういったサイトを立ち上げたのではないですから・・・。
学校の先生にもあまりいい思い出がない(笑)。
代議士とか政治家や企業で講演やってる先生にも他の仕事で何人も会っていますが・・・。肩書を自慢したり名刺に並べる連中が嫌い。態度が尊大だったり周囲に威張り散らすタイプが多かったので。
正直に言いますが、ネットでヘンテコな団体立ち上げて催眠団体の理事だとか代表だなどと言い張ってる連中など「死ぬほど嫌い」です。
ですので、今も私は自分を先生だとは思っていませんし名乗ってもいません。
新しい彼ができたんだって。今とっても幸せだそうよ。
その言葉を聞いて安心しました。
催眠誘導中には苦しそうな表情もあった。誤解や錯覚、不幸な偶然の一致のから余計なトラウマや感情を引き出すことにもなって。
彼女ご自身が悲しんだり苦しんでいる部分がありました。
あー、きもちよかった!
と言いながら泪を拭って起き上がってきた眠れる森の美女が、新しい王子様を捕まえて優しくしてもらってるならば、これに勝る喜びはないですね。
それこそが催眠術師冥利? というかカウンセラー冥利に尽きます。
今度こそ、彼女が幸せになればいいな、と願います。
「催眠術師のひとりごと」著作の冒頭に書いたシーンは、このコーナーからの抜粋です。こちらが先に描かれました。良ければ、合わせて参考にして下さい。
1999年12月12日 改定
2018年12月10日 加筆、修正
谷口信行