心の中には引き出しがいっぱいある
不幸なめぐり合わせというか偶然が折り重なることで何かが開いてしまうことはあるようです。
いわば偶然の一致で数多くある引き出しの鍵が当たってしまっただけであって。
そのどれかが異なっていれば記憶の扉、引き出しは開くことがなかったと思うのです。
人の心の中は細かく仕分けされています。その分類、引き出しや仕分けは過去の経験や記憶によって形造られ、小さなものから始まって上に進むにつれ、段々とサイズが大きくなって行きます。
タンスに喩える(たとえる)なら下に行くほど引き出しは小さく、そのかわり厳重に鍵がかかっているものと考えてください。
幼少時の記憶は思い出すことは少ないのですが、その人の根本、人格の基本となるものです。
通常は上の引き出しから開いて行くのです。上の引き出しほど緩やかで開くことに抵抗はなく、鍵もかかっていません。簡単に開いてしまいます。
ある程度、成長して精神が安定するなりしっかりしてきたら、自分の心に「鍵」だってかけられます。何らかの失敗や苦しい思い、辛い出来事があってもある程度までは我慢できたり対処もできる。
それは時間経過による経験の積み重ねでもあります。
実際には引き出しの中に詰まっている経験=記憶と照らし合わせることで、人は次々と起こってくる現実の問題や自分の「その時の感情」に対応しているのです。
上の引き出しが簡単に開くからといって、トラブルに見舞われることは殆どありません。
大人として精神が成熟したり、経験を積んでからのトラブルは大抵はごく表面、記憶の上の部分で対処できるからです。
ですが稀に、その上の引き出しの中に次へ引きだしへの鍵(キーワード)が入っている場合があります。その鍵は今開いている引き出しよりも下の階層にある引き出しを開ける鍵となります。
次の引き出しを開けると、そのまた下の引き出しを開ける鍵があって、そのキーワード(言葉だけではなく心象風景や人物像なども含む)開いてしまいます。
次々に記憶が連鎖することで本来、簡単には開かないはずの一番奥、または一番触れて欲しくなくて本人が厳重に管理、警戒している心の奥底の部分にあっさりアクセスしてしまい、たどり着くこともあるのです。
たくさんの要因が集まってしまうと、トラブルを引き起こす引き金となる場合もあります。
お父さんの取った軽はずみな行動が今回のトラブルの全ての原因とか根本ではなく、たくさんの要因と偶然が複数、重なり合うことで起きてしまった不幸な事故のようなものだ、ということを彼女に時間をかけて説明しました。
もう一度、催眠を深化させて問い掛ける
彼女のケースで幸いであったのは御両親が今は仲が良く、離婚したり喧嘩したりを繰り返す関係には至っていなかったことです。
彼女自身、ご両親を尊敬しており、お父さんのこともお母さんのことも信頼して大切に思い、好きだとはっきり言いました。
もっとも、今回のトラブルは彼女が御両親を尊敬し、どちらのことも嫌いになれなかったことも要因の1つなわけですが・・・。
これは相談者には解説していません。「お母さんがかわいそうだ」という気持ちと「お父さんも好きだし」といった感情があったからこそ板挟みになったわけで。
ご両親が離婚していたり、お父さんかお母さんのどちらか一方と暮らしていて繋がりが断ち切られていた場合には悩んでいないかも知れないですよ? 催眠術師? になんて相談せず、長年浮気していた男性とあっさり別れて次のパートナーを探そうとしていたかも知れないのです。
難しいものですね。優しさと尊敬の感情、思いやりからご本人が苦しむ例も多々あるのです。彼女だけが特殊な例というわけではありません。
そこで私は彼女にもう一度催眠をかけ直し、そこの部分から改善を試みることにしました。
お父さんとお母さんは仲が悪いですか?
いいえ。
あなたはお父さんは嫌いですか?
いいえ。
今、お父さんはお母さんをいい加減に扱っていますか? ご両親の間には愛情を感じられませんか?
いいえ、お父さんはお母さんをとても大事にしています。
お父さんは今も、浮気をしていると思いますか?
いいえ。
もう一度聞きます。お父さんが嫌いですか?
いいえ。
浮気をしていたお父さんは許してあげれませんか?
いいえ、でも、お母さんがかわいそう・・・。
お母さんはお父さんのことが好きだと思いますか?
はい。
お母さんはお父さんの浮気のことを知っていると思いますか?
もしかしたら、気がついていたかもしれません。
お母さんはお父さんを許してあげていませんか?
実はここの部分、この一連の問い掛けや受け答えこそがが重要なのです。
今も家庭でご両親の間がうまくいっていないとしたら、この問いかけは逆効果となります。
ここをうまく行わないと「お父さんは悪いことをしたから、お母さんの許してもらえないのが当然なんだ。だから私もそうしなきゃ・・・」といった悪い動議付け、悪い方向づけの根拠となってしまうからです。
お母さんは、今はお父さんを許してあげてると思います。