2018/12/13改訂
1997/05/15初稿
笑っているから大丈夫って訳じゃない
私には変わった友人が多かったので、面白い? 話も結構あります。
ある友人が夜の飲食店で働いていました。まあ、おわかりかと思いますが、スナックとかラウンジとかショットバーとか一種の接客業という奴です。
面白い奴なんですけどね。ジョークもうまいし客のあしらいも上手です。歌の一つも歌わせると拍手も起きますし当然、女の子にもモテます。
コイツが一人の女性と付き合い始めました。
結構な美人です。正直、周囲にいる男連中の印象は(コノヤロ〜!)でした(笑)。
調子いい男がモテるとムカつくもんですよね〜。まあ、誰しも似た所は持ってるんですが。自分のことは棚に上げるもんです。
相手は顔立ちがちょっとハーフっぽい美人でした。モデルタイプの長身でゴージャスな感じですかね?
まあ、その私の友人も派手でしたし。そいつは服の趣味などがかなり悪い。ただ、やっぱりどちらかが地味ならつり合わないですし、似合いのカップルかな? とも考えていました。
ちょっと気になったのは、その辺りからそいつの金遣いが荒くなったことです。
俗に言われるゲーム喫茶(違法な賭博場のようなもの、昔はたくさんありました)や、ルーレットやバカラなどの賭博場(今は潰れてなくなっています)に出入りするようになったという噂を聞くようになりました。
しかもかなりの大金を賭けているようです。
「おい、おい、あいつ大丈夫か?」と、皆で心配していると当のご本人から連絡があり「大丈夫、大丈夫。金はあるんだから」といった、えらく脳天気なお答えが返ってきました。
突然、現れた友人
それからしばらくたったある日の夕方です。
当時、自分で飲食店を経営していた私は暢気に開店の準備をしていました。鼻唄まじりに準備をしていると、バタン! っと急に入り口が開いて誰かが入ってきました。
匿ってくれ!
真っ青な顔をして、そいつが入ってきたのです。
そいつってのは、例の友人のことですね。
ビックリしました。そいつも割と根性は座っている筈なんですが、異様に焦っていますし顔色が悪いです。
おいおい、どうしたんだ?
ただならぬ気配に、博打で巨額な借金でもしてしまってヤクザにでも追われているのかと思いました。
尋常な慌て方ではなかったので。
いいから匿ってくれ!
と言ったっきり、カウンターの角に行って頭を抱えて座り込んでしまい、動こうとしません。
誰にも言うなよ! 特に◯◯には!
◯◯というのはそいつの付き合っていた女の子の名前です。前出のハーフ美人。
あんなに仲が良かったのにおかしな事を言うモンだなとは思いましたが、浮気でもバレたのかと思って何もいいませんでした。男どうしですからね(笑)。
古い付き合いですし、いちいち聞くまでもないと思ったのです。
しばらくすると、その彼女から私の店に電話がありました。
「あの人が来てない?」
今日はまだ来てないよ? どうしたの?
と聞くと、
「なんでもないの」
とだけ言って電話は切れてしまいました。なんだか普段とは違って寂しそうというか、奇妙に疲れた印象に感じましたね。
なんか、二人とも様子がヘンです。
長い付き合いだったんですが、私はそいつ(男の方ですね)が震えているのを始めて見ました。
ポッカリと穴の空いた服
どうしたんだ? 電話があったけど一応、とぼけといたぞ?
と言いました。するとそいつが
これを見てくれ・・・。
と自分の上着を広げました。
上着の前側のちょうど真中の辺り、つまりお腹の辺りにポッカリ穴が開いているのです。
あいつ、本気だったんだ・・・。
話を聞くと、いつものように遊び倒した?その男は、夕方になってから家に帰ろうということになったそうです。一応、仕事はしてましたから着替えて夕方から店に出勤するつもりだったんですね。
タクシーを止め、一緒に来ていた彼女と乗り込みました。
走り始めてすぐに隣に座っていた彼女が自分のバッグに手を入れ、急にガバッと覆い被さってきたんだそうです。
気がつくとお腹に刃物が・・・。穴が開いているのはその際に出来たものです。
お前・・・。どうして助かったんだ?
見るとそいつのベルトには趣味の悪いでっかいバックルがついていました(笑)。そいつ服のセンスがおかしいんですよ。
彼女の取り出した刃物が、たまたまその趣味の悪いバックルに当たって刺さらなかったのです。
いつも「悪趣味だ!」と皆に馬鹿にされていたでっかいベルトのバックルが彼の命を救った訳です。
彼は震えていましたが、私は思わず大笑いしてしまいました。
まるでマンガのようですな(笑)。
まあ助かったからいいようなものの、刺さっていたら確実に死んでいたでしょう。上の服を見事なまでに貫通しています。スッパリという奴ですね(笑)。
よほど良い刃物使ったんですかね? 柳刃包丁みたいな? 心臓を狙うか、ちょっとでもズレていたら終わりです。彼がガタガタ震えていた理由のわかりました。もうちょっとで死ぬ所だったのですね。
まあ、すべてそいつが悪いんですが。