2017/12/10改訂
1999/06/19初稿
心理学というと縁遠くなりますけど
※このコーナーの初稿は1999年6月です。このコーナーを読んだ雑誌やテレビ番組から複数の問い合わせ、取材を受けています。2017年のサーバー移転で時代背景にあわせて一部修正加筆を行ってあります。
心理学とか催眠術と言うと、堅く考えてしまって敬遠したり、先入観があってなかなか理解できない人がいます。
「心理学なんて何に使えるっていうの?」「どうせ単なる学問で、たいした事はないんでしょ?」などと思う人がいます。
面白いのは、そういった誤解はマスコミ関係者にもありますよ。某番組に出演中にそういった趣旨の発言を私の目の前でする人がいてビックリしました。
催眠をかけてくれ、番組で実演してくれって言われて出てきていて。その効果とか様子を目の前で見ているわけです。私の書いた内容を呼んで出演を依頼した側がその程度の認識しか持ってませんでした。
実際には社会に心理学の応用の技術が利用されているケースは沢山あります。
例えばですが、お肉屋さん専用ライトとか売っていますよ。肉は明るい暖色系(赤い色)を強調したほうが肉が新鮮にみえて売り上げが伸びます。
反対に鮮魚ですとブルー系を強めたほうが良いようですね。近年はLEDの発達、低価格化が目覚ましいので。蛍光灯ではなくお肉屋さん、魚屋さん専用のLEDライトやLED付きケースが販売されています。
これなどもマーケティングや心理学者が検証した技術ですでに一般化した知識ですね。専用の蛍光灯なども商品化されておりどこでも普通に販売されていますよ。
人間が圧迫感を受ける天井の高さとかドア、入り口の幅もあります。
不動産屋さんに聞いてみるといいですよ。一等地にあるテナントビルの1階で良い物件の筈なのになぜかコロコロ商売が変わったり入居者が出て行く所もあります。
半地下と言いますが人間はほんの数段、階段を降りるのを嫌がることがあります。坂道に建つ物件では冠水を避けようと後で道路に盛り土をするので建物が低くなってしまうことがあります。
私が担当したケースでは天井が低くなることを覚悟の上で床を上げて出入り口の照明、LEDを設置して足元を明るくしただけで売り上げが劇的に改善したことがありました。
心理的なトリックで「足元が暗くて下り坂なのは怖い」ので入店者が減るんですよ。
商品を陳列する際にもレイアウト一つや照明一つでで売れ行きが異なったりもします。人気のある商品であっても人間の心理に逆らう形で販売を行うと売り上げは落ちるのです。
書店での書籍の並べ方や位置、スーパーの折り込みチラシに至るまで心理学を応用した知識や広告、技術は数多くありますよ。
ただ、その心理学の知識を理解して実際に売り上げなどに積極的に利用している側はですね、それを一種の「財産」だと考えます。
さっきの食肉を例にとりますと専用ライトだけではありません。発泡スチロールトレイに「肉」を乗せる前に肉汁が垂れないように中には吸収紙が敷いてあります。
それをラップするのですが、その際に中にガスを充填してあります。それをすると食肉の赤い色がなかなか褪せることがなく長持ちしたりもします。
紙を剥がすと「肉の一部分だけ赤い」場合があるでしょう? 知っていましたか?
そういった知識が一般に広がらないのは・・・
「そんなのインチキじゃん!」と怒る方もいるかも知れませんが、大手スーパーやお肉屋さんでは殆どの所が導入していますよ(笑)。
変色しないようにガスを入れるか空気を抜くってのはいわば、常識になっています。
肉が「重なっている部分」をめくると、その下の部分が若干黒ずんでいたりします。劣化しているのではなく、そこにはガスが浸透しないから。ですので、そこだけ先に色が変化します。
「酸化」ですからね(笑)。酸素がなければ退色は遅くなるでしょう。出荷した時点から肉や魚の劣化や酸化は進んでしまいます。それを止めないと売り上げが落ちますし廃棄率が上がる。
とれたてを低温保存してね。温度管理をしっかりしていれば腐っているわけではないですよ? ただしそれでも一般消費者はわずかな色の変化を見ただけで鮮度が落ちたり品質が悪いと思ってしまう。
ですのでそういった技術を用い、できるだけ肉の変色を遅くしようとしています。それは消費者が「色彩」に影響を受ける事を販売者側が知っているという証明です。
色が多少変わった程度では品質には問題が無いですが・・・。日本においてはその程度のことでも買い控えが起こるんですよ。かなり神経質ですかね? 海外などだと生魚をざっくりスコップですくって紙袋やナイロン袋にぶっ込む、などが当たり前の国もまだまだありますが。
ガスパッケージの導入には結構な費用もかかります。それでも販売を促進し排棄率を下げるために「有効である」と判断したために、各店舗で導入が進んだのでしょう。
そういった知識はマーケティングや心理学の常識です。販売などの仕事に携わるなら知っていなければなりません。ただし、その「商品を売る為の知識」が他の店とかショップ、一般人に浸透してしまうと効果はかなり薄くなるでしょう。
そういった知識は、できれば自分たちだけで独占したいんですよ(笑)。
それにそういった知識が一般人に漏れると「新鮮ではない肉をライティングやガス充填で誤魔化している!」という誤解や錯覚も生みかねません。それで伏せることになりできるだけ表に出さないのです。
その陳列方法で実際に商品が「売れる」としましょう。どこのお店も同じ照明を使いませんか?
結果として全てが横並びになってしまう。そうなれば売り上げはまた横一線ですね。
今は高級牛肉は「いったん冷凍して」カッターで薄く切りますよ。しゃぶしゃぶ用のものは薄切りにした直後にフィルムで包んでしまいます。そのほうが酸化、色の変化が少ないですから。
ビタミン剤の塗布とかガス充填のような知識がネットで広がったため、以前のやり方は通じなくなったんですよ。古くなった肉を高値で売るために小細工をしていると思われることを避けるため、販売店で工夫して一枚ずつ密着させて梱包、品質保持に手間をかけています。
催眠とか心理学を応用した知識や技術は確かに「ある」のですが、それをうまく使って商売を行っている側はたいてい伏せますよ(笑)。上記のような理由で「全部が同じ」になってしまえばメリットが減りますし、そこの部分を強調しても消費者の理解がなかなか得られないから。
まあ当然ですね。他人に迂闊にばらまけば新技術、特殊な知識としての価値は下がってしまう。
また余計な心配や誤解を生む可能性もある。なので、だまーって利用するか、知人や親族、自分のグループ会社でだけ運用したいと望むわけです。
ですから、心理学を全面に押して「こんな素晴らしい効果があるんですよ」とははっきり言わない場合が多いですね。それが一般に知識が広がらない理由ですよ。
私が講演会や販売の会議に呼ばれて講師料を頂戴できるのは、それだけ特殊な方法を知っているからです(笑)。先に述べた半地下と呼ばれるテナント物件の修繕の話などは、都心部で安くて良い店舗を探している方には参考になると思われます。
本来なら絶対に避けなければならない物件の一つです。潰れる店ってのはずっと潰れています(笑)。経営者が間抜けとか賭博狂いで潰れるのではなく、どうしてもお客さんが入りにくいとか敬遠する「構造とか立地条件」というものもあるわけで。
それを調べて何とかするために心理学などのテクニックが存在します。
これは心理学とか催眠に限定する話ではなくて、税理士でも行政書士、不動産屋や労務士でも同じですよ。その道のプロとか長く携わってきた者だけが知っていることは、やはりあるでしょう。
どこにでもあるコンビニ
例えばタクシーの運転手でベテランならば、裏道や渋滞情報に詳しい人もいます。GPSナビには載っていない情報(工事、渋滞情報など)を把握していれば、そちらのほうが速くなります。
Googleとか地図上の距離だけではわからない情報もあるのです。
直線距離なら確かにそちらのほうが早い。ただし途中で信号もあります。地下鉄工事や渋滞がある時間ならベテランのタクシー運転手に叶う一般人はなかなかいませんよ(笑)。
スマホで検索したって小さな道路や迂回路の情報なんて出てきませんから。
要するにそれは経験を通して得た知識、技術という名の「財産」を持っているからです。
実例をあげないとわかりにくいと思いますので、一部だけここでお話しましょう。身近にある例としてコンビニに用いられている心理効果について解説してみましょう。
コンビニエンスストア。略してコンビニ。今さら解説するまでもなく、どこの街にもありますよね?
一時は深夜ストアという名称のお店がありました。四国から北陸に至るまで進出していて広島などにも広がりそうな勢いでした。今も幾つかは遺されています。
個人営業の24時間ストアもあったのですが、現在ではその殆どがコンビニにとって変わられています。
皆さんは不思議だなとは思いませんか? 多くがコンビニチェーンの傘下になったことが?
そういった個人商店や深夜ストアが別に大手チェーンに必ず入る必要はなかったのです。コンビニがチェーンとして拡大する以前にも個人経営や独自展開するグループもあったのですから。
ところが、その殆どがどこか大手チェーンに吸収されるか、潰れる形で淘汰されました。
これはね、ただ単に流通や商品供給や資本金の問題だけでなく、コンビニにはその運営の方法などに心理的に様々な工夫が施してあるからなのです。
商品の陳列、補給方法、棚の角度や照明、窓の大きさ、漫画本の配置やガムや甘いものの位置までが心理学やマーケティングの基礎によって形作られたものです。
日本においてコンビニエンスストアって概念(形式)での販売や営業が始まったのは、たかだか四十数年間に過ぎません。(2017年現在の記述です)私が大阪に暮らし始めた頃、1990年代前半にはコンビニってそんなに無かったんですよ。
フランチャイズで全国展開してゆくためには物流の整備が必要です。そのための交通網やトラック配送システムが整うことで急速な拡大を生みます。
1974年5月 セブンイレブン豊洲店 東京都江東区
1975年6月 ローソン桜塚店 大阪府豊中市
1978年4月 ファミリーマート入曽店 埼玉県狭山市
地方都市は数年間は足踏み状態が続きました。今でも過疎地域は利益採算性が悪いので出店していないケースがあります。
現在ではあっと言う間に数が増え、全国津々浦々に店鋪は展開しています。
コンビニエンスストアの発足当時、商品自体は決して安くはありませんでした。今でこそ件数も増えて価格も多少下がっていますが、はっきりいって比較すれば高かった。
近所のスーパーと値段の差を考えればその違いは明らかです。なのに多くの人達、特に若い世代はコンビニに行き、買い物を済ませてしまう場合が多いのです。
これはいったい、なぜなんでしょう?