正しい催眠誘導の方法 / 第六章

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催眠とは暗示とラポールで繋がる

コマーシャルなどに含まれる「暗示」(31ページ)

今でこそ世に知られた企業ですが、以前はベールに包まれていた産業の一つにデビアスというダイヤモンド販社があります。

南アフリカを拠点とする企業ですが、小説や映画の題材になったりしたので知っている人も多くなったと思いますが、この会社で有名な話があります。

「婚約指輪はダイヤモンド」

「婚約指輪は給料の3ヶ月分」

というCMやキャッチコピーを聞いたことはないですか?

あれはそもそもダイヤモンドの輸入販売を手がけていたデビアス社が神戸の映画館で流し始めたものだと言われています。当初は小さな取り扱いでしたり話題にもならなかったのです。

バブル期に日本で宝飾品ブームが起こり豪華な時計や指輪、ネックレスが売られるようになった頃にテレビCMにも同じ内容を流すようになりました。

あのCMとキャッチコピーで。デビアスの日本での売り上げは数十倍になったとも言われています。

私は元宝石の販売員でもありますから(笑)。関係者の方から直接聞いた話です。

コマーシャルを見て商品を買いに行ったり、テレビドラマを見てそのドラマの主題歌をダウンロードしたり、あの石鹸を使ったりジェルを塗ると痩せると思い込んでしまったりと、生活にある「暗示の実際例」を数え上げれば切りがありません。

それは現実には起こり得ないことも含まれます。一時流行した海草やそのエキス入りの石鹸などもその典型ですが、成分には痩せるものが入っているとの表記はありません。

法改正があってので具体的な効能、ダイエットを謳うことは法律違反ですからね。そういった効用を謳ってはいませんが、中国4千年の秘術なら痩せるに違いないと思い込んだり。

男性の場合は「毛生え薬」等もありますね。ご本人の強い願望から効くのではないか? といった自己暗示にかかってしまうのです。

話題となった毛生え薬に飛びついた男性も知っていますが、驚くほど高かったですよ? 何本もまとめて購入していました。すでに何年かが経過しましたが、彼の外見に変化はないように思います。

「もしかして効くかも?」といった期待とか思惑、一種の思い込みだけでも実際に売り上げが大きく変動するのです。その金額は時に数十億、数百億にも及びます。

その後、10年どころか30年経っても影響を残すこともある。デビアスのような実例がありますから、企業としては笑い事では済まないでしょうね。

その情報が正しいかどうか? は本人達はまったく確認していません。多くの場合はただの宣伝広告とかキャッチコピー、誰かからの口コミとか噂だけです。

「コマーシャルに出ている商品は良いものに違いない」と思い込んだり「まさか有名な企業の商品に間違いはないだろう」とも思います。皆が効くと言ってるから大丈夫に違いない、3ヶ月分を支払うのが常識なんだ、といった錯覚を引き起こすのです。

「催眠」というと不思議なものに感じるようですが、実際には催眠と何ら変わらない部分を持つ社会現象や、それを応用した販売方法や宣伝などは生活において様々に利用されています。

それなのになぜ、催眠で行われる暗示や誘導ばかりが特殊なことのように感じ、大きくクローズアップされるのでしょうか?

テレビコマーシャルなどの例ですと、だいたい2、3ヶ月は効果が現れません。

頻度(一日に流れる回数)にもよりますが、コマーシャルを放送してすぐに販売に実績がグーンと上がるのではなく、少し経ってから効いてきます。

デビアスに至っては映画館時代から換算すると10年以上もそのキャッチコピーを継続していたそうですから(笑)。効果があれば見返りも大きいですが、遠大というか長期計画にも程がありますね。

最近はメディアミックスといいまして通常のコマーシャルとか宣伝広告では効果が薄いので。テレビと新聞、それにネット広告やゲーム、アプリを使った複合広告で一気に加速しようとしています。

コマーシャルをボクシングなどに例えるなら、そもそもはじわじわと強烈に効いてくるボディーブローのようなものでした。飲んですぐ効く即効性の薬ではなかったんですよ。

一流企業と呼ばれる各社が大金を払って芸能人やスポーツ選手を起用し、コマーシャルを作り続けなければならない理由はそこにあるのです。

これは先に解説したラポールなどにも繋がる話なのですが・・・。

人間の意識、注目を奪えるのはわずか数秒です。

有名人や人気のあるタレントを起用すると「え? あの人が?」と思って瞬間、注目を集めます。無意識にその声や個性に魅せられるのです。するとたとえそれが一瞬であっても、見る人の意識とか視線を捉えることができます。

その一瞬の効果に企業は数千万円、時には数億円を支払っていることになります。

一瞬の印象がインパクトとなって頭の中や「潜在意識に」飛び込んできます。

そうすると作り手側の意識する映像や音楽「売りたい商品」「社名」も一瞬の情報として飛び込みます(笑)。それを何回か繰り返すことで「暗示として」潜在意識に残るのです。

「催眠とは何か?」のコーナーでも触れましたが、人間の表層意識(自我、顕在意識ともいいます)は強固にできており簡単には開くことはありません。それを乗り越え、内側に働きかけて実際のリアクションを起こしたいわけです。

現状ではコマーシャルのような方法を用い、繰り返し映像や音楽を使って何かの印象やインパクトを与え続ける以外に方法がないのです。

皆さんはおかしいとは思いませんか? 企業が大金を投じて行うコマーシャルの殆どは、一本、ほんの数十秒の放送時間です。短いものだとたった2、3秒程度のものまでありますよ? YouTubeなどはスキップ機能がありますので、5秒過ぎれば飛ばしてしまう人が多いでしょうね。

どうせお金をかけるならば、もっと長時間のものを作ったほうが効率は良く、視聴者に商品や企業の記憶には残りそうに思います。

ですが実際にはそうではないんですよ。

YouTubeの広告スキップ5秒も考え抜かれた数値でしょう。

パソコンやスマホなら映像そのものを閉じてしまえる。人間が待つことのできるギリギリの秒数、閉じることなく影響が残せる限界を狙って「5秒スキップ」というシステムが組まれていると思いますよ。

実は一回に人間が受け取れる印象(情報)には限りがあるのです。心理障壁に阻まれ、潜在意識に一度に大量の情報が流れ込まないように制御が行われています。

日々、膨大な情報に触れる私達の潜在意識にその全てがストレートに伝わってしまえば、大変なことになります。

明日の子どもたちの食費、部屋の家賃より、高額な「痩せるジェル」や「毛生え薬」を優先して買うようになりますよ? ですから、そうならないように顕在意識や心理障壁(後で解説を加えます)などが情報を取捨選択し残したいものだけを残すのです。

コマーシャルにおいては一回あたりの放送時間は短くし、代わりに回数は多く設定することになります。そうしたほうが視聴者にはより強く、商品や企業のイメージがインパクトとなって明確に印象に残るからです。

これらもコマーシャル関係者が過去の経験やマーケティングから効率の良い方法を模索した結果で決まったものでしょう。テレビの創業期にはもっと長い放送時間(一回あたり1分近く)のコマーシャルが放送されていた時期もあります。

近年はステマ、ステルスマーケティングという方法も増えていますが。これなどは商品名や社名を連呼する従来どおりの手法だと効果が薄くなったんですよ。

不祥事とかトラブルがあった場合は、企業名がマイナスのイメージとして刷り込まれています。ですので負の連鎖が起こって他の商品までが売れなくなる。

それを察した企業側が、一般人とか無関係の視聴者、芸能人などが「その商品を使っている」シーンをさりげなくはめ込もうとするものです。

ステルスとは航空機とかミサイルがレーダーで発見されないようにする技術ですが・・・。ステルスマーケティングとして存在すると認知された時点で。効果は薄くなると思いますよ? 

見えてしまったものはステルスではなくなるので。結局は今後も従来どおりの手法のほうが主流になるでしょう。

YouTubeや個人ブログ、インスタグラムなどが持て囃されている理由は「メーカーとか企業が」仕込んだステルスではない、消費者や一般ユーザーの生の声が「口コミで聞けるのではないか?」という期待があるからです。

そこも荒らしてしまって仕込みや八百長が増えれば。ステルスマーケティングと同じ末路をたどります。効果がなくなるでしょうね。

そういった方法や知識を用い、何千万、何億円という大変な費用と労力、膨大な時間をつぎ込んだコマーシャルでも、効果上がるまでは数ヵ月とか数年という時間がかかります。

中には大金を投じたにも関わらず、まったく効果のないコマーシャルもあるようですね。