自分の意識で動かせない部分(165ページ)
ここまで読んでお気づきの方もいるかも知れませんが「深呼吸の手順と最初の導入」において、私が深呼吸を重視して数えたり身体の力を抜かせようとしているのは、このシュルツの自律訓練法も参考にしているからです。
そのシュルツも宗教儀式や座禅などからヒントを得たとも言われています。
日本で有名なものとしては内観法(ないかんほう)と言われるものがあり、軟酥の法(なんそのほう)と言われるものを秘法であるかのように扱っているグループも存在します。
以前はテキストやサイト上でそれに関する解説もしていました。オウム真理教のような過去に大きな社会問題を起こした連中やその残党が宣伝に利用するようになったので「軟酥の法」「内観法」に関する記述は削っています。
少々難しい話になりますが、人間には随意筋と不随意筋と呼ばれる物があります。
自分の意思で動かせる筋肉と、自分に意思では動かせない筋肉(例えば、心臓や呼吸、血圧の調整や腸の蠕動など)があります。自分の意思で動かせるものを「随意筋」と呼んでいます。
自分で考えて血圧を上下させている人はいません。脈拍もそうですが、自分が「意識して」早くしたり遅くしたりはしないのです。興味深いのは運動した時だけではなく緊張したり興奮しても勝手に上がったり下がったりします。
この自分では動かせない筈の筋肉や器官、血圧や脈拍数などを調整しているのが自律神経系と呼ばれる部分になります。
手に汗を握るという言葉の解説もしましたが。人間は何かを見て興奮すると汗をかきます。
心臓を動かしたり、血圧を調整するのは自律神経系ですが「こちらが動かそうと考えていない、意識していないのに」勝手に自動で調整を加えてくれている訳ですね。
これは原始の時代にまで遡ると言われています。常に興奮しっぱなしだと体力やエネルギーを消費します。
ですので獲物が通りかかった時だけとか収穫の時期、子孫を残すために生殖行動をしたり外敵と戦ったり、逃げる時だけ、強力な脳内ホルモンを分泌して勢いを付けるわけですね。
それ意外は抑えて体温や脈拍数を下げ省エネに務めるわけです。
自律神経系は、緊張すると交感神経優位に働きます。緊張が緩むと副交感神経優位に働きます。その両方を調整することで、日常に生じる様々な状況に対応していることになります。
自律神経系は「意識しないで」も勝手に様々な状況に対応し、体調を整えてくれる便利な機能を持っています。オートナビゲーションや車の追突防止装置のようなものです。
ですがその機能が便利であるが故に、時にはセンサーが狂う場合があるのです。
人間には感情があります。その感情は自分の周辺で起きる出来事や周囲の働きかけなどによって常に変化しています。強いストレスを感じ取ってしまう(本人が何かの強い刺激を受ける)と感情が暴走してホルモンバランスが崩れます。
あまりに強い感情は人間にとって精神的なダメージになります。
脳内ホルモンは緊急時に逃げるため、背中を蹴っ飛ばすような成分だったり、反対にとても幸せな気分になる物質だったりします。脳内麻薬とも表現されることがありますがドーパミンもエンドルフィンも、副作用があるんですよ。
何の問題もないなら出しっぱなしにできるのでしょうが。効果が強力な分だけ蛇口の開け閉めには気を使います。
何かのきっかけで「恐い!」とか「嫌だ!」「悲しい!」などの感情が高まるとそれは一種の衝撃となり、脳の一部に深い影響を残すのです。
人間の感情の部分を司っている大脳辺縁系は、外的な刺激によって生じた人間の強い感情の影響を直接受けます。
するとそれと隣接して調整を行っている器官、蛇口とコントロールセンターである自律神経系は、それに引きずらてしまい一種の暴走を起こすのです。