催眠術師のひとりごと / プロローグ

スポンサーリンク
催眠誘導を使った実際例の紹介

忘れてしまった過去の記憶 Bさんの場合(19ページ)

Yシャツ アイコンBさんは現在、ある会社の課長をやっています。大手ではありませんが、中堅のリース関連の企業にいます。現在33才。

いわゆるサラリーマンで順風とまではいえないものの、仕事もそこそこにこなし、同期の仲間にも信頼されています。物事ははっきりといいますし、押し出しが強く仕事もテキパキとこなします。

上司との関係も円滑に築いており、昇進も早いのではないか? というのが周囲のもっぱらの噂でした。

そのBさんがあることで悩むようになりました。ある日を境にいつも乗っていた通勤の電車に、急に乗れなくなったのです。

それは当初、吐き気となって現れました。Bさんがいつものように仕事を終え、家に帰ろうと電車に乗っていると、強烈な吐き気に襲われるようになったのです。

めまいや立ちくらみ、動怪が幾度となく起こります。特に吐き気とめまいが酷くいつもは4、50分で帰れる答の電車を途中で何度も降りて駅のベンチで休憩しなければなりません。

最初は「おかしいな?」程度に捉えただけだったのでしょうが毎日となると困ります。少し休めば治ると考え、少々疲れが溜まったんだ、程度に思ったのです。

ところが症状は段々と酷くなり、収まるどころではありません。最初は数回、途中で休憩すれば家に帰れていたものの段々と酷くなり、今では一駅ごとに降りなくては吐きそうになってしまいます。

そのうち帰りだけではなく、朝の通勤時もそういった症状が起こるようになってきました。

何度考えても自分では原因がわかりません。勇気を出して病院にも通いました。早く治さないと仕事に差し障りがある、と思ったからです。

私から見るとBさんは優秀な社員であると同時に、非常に真面目な性格をしていました。この真面目さが曲者なんですけどね。真面目で責任感がある人ですからなおさら、精神的なトラブルが起こると原因を探そうと必死になり、結果、思いつめてしまったり話がややこしくなったりもします。

あちこちの病院にかかったものの、原因ははっきりとしませんでした。病院でもらった薬を飲むと症状は和らぎますが薬の影響で頭が一日中、ボーッとしてしまったり、車の運転が出来ません。

思い悩んだBさんは迷った末にインターネットを通じ、私に面談を申し込んでこられたのです。

後で催眠誘導を行うようになると、Bさんがなぜ、そういった症状に捕われるようになったのかがわかってくるようになりました。

幸いなことにBさんには催眠がよくかかりました。誤解するといけないので、ここではっきりいっておきますが、催眠は万人向けではありません。体質によってはどうしてもかからない人も存在します。

今回のケースでは、Bさんが帰り道で見たある光景にきっかけがあったんですよ。

その記憶は、彼の表面上の記憶からは綺麗サッパリ消えていました。先のAさんの例でも触れましたが、自分の記憶にはない答の出来事がその人を後々まで苦しめる場合もあるのです。

たまたま自分が通りがかって目撃したその光景に、現在の自分の境遇に重なる部分を見たのだと思います。

最近は不況ですからね。どこの会社にとっても気楽で楽しい、ということはあまりありません。Bさんも中間管理職ですから、サービス残業などもあります。嫌だとか、嫌じゃないなどとはいってられないんですよ。残業にしても皆が当たり前のようにやっているから、「自分だけやらない」とはいえないのが現状です。

リストラされたり、会社そのものがなくなるよりはマシだろう、と考えれば、多少の無理もしなくてはならなくなります。

人間ね、辛いものは辛いんです。どんなに目を瞑ろうと思っても「我慢しなくては」と自分にいい聞かせても辛くなります。ですが仕事でも恋愛においても、どうしても「辛い」とか「嫌だ」といえない場合もあるのです。

生活を支え、収入を得ながら家族や家庭を守りたいと考えていたり、「この人を失いたくない」とか、「一人になりたくない」などと考えるとストレートには言えなくなってしまいます。

自分が「辛い」とか、嫌だと言い出すば全てを失ってしまうように感じるからです。

Bさんは連日の残業続きでした。その日も疲れていましたので、早く帰って休もう、と思っているとなかなか電車がホームに入ってきません。

依頼者男性
依頼者男性

おかしいな?

とは思ったものの、最近はよくあることなんですよ。次の駅で事故があった、というアナウンスが流れ、電車の到着が遅れました。

依頼者男性
依頼者男性

早く帰りたいのに・・・。

と考えながら、到着を待ちます。

電車の駅のホーム 写真何分か遅れて到着した電車に乗って、家路を急ぎます。次の駅に電車が滑り込み、止まった所で入り口のドアがスーッと開きました。

そこでBさんは運の悪いことにある物が置いてあるのを目撃します。

ドアを開けてすぐの所に、たまたま、靴と通勤用の鉋が一緒に置いてあったのです。

無造作に投げ出された持ち主のいない靴と飽。

その飽の中からはみ出しホームに散らかってしまった書類らしき紙の集まりが真っ白に、やけにはっきりとBさんの目に飛び込んで印象として残りました。

そして、人垣に囲まれた向こうにはBさんとは同世代のサラリーマンらしき男性が倒れているところが見えました。

本来、翌日に必要な書類だったのかもしれません。赤の他人ですが背格、雰囲気が自分に似ていました。

普通の事故なら電車は遅れません。ホームに放り出されたカバンと書類、そして脱がされた靴。そこから導かれる答えは一つになります。

誰かが落ちたか、飛び込んだのです。見えたのは一瞬に過ぎません。ほんの数秒だけです。自分で見ようともしていませんし、偶然、開いたドアの向こうがチラッと垣間見えたに過ぎないのです。

事故といってもそれがどういった種類の事故なのか、その倒れている人がどの程度の怪我だったのかもわかりません。ですから、自分ではまったく気にしたつもりなどなかったんです。

Bさんは催眠を深化させ、原因の特定が終わった途端、

依頼者男性
依頼者男性

恐かったんだ・・・。

と泣き出しました。彼の見た散らばっている書類のイメージは強烈なインパクトを伴って彼の頭にこびり着いてしまったのでしょう。

彼が現在、仕事において背負っているプレッシャー、働いている状況ともその光景は重なったようです。

本人が意識するしないに関わらず、「もしかしたら自分も・・・」と無意識に感じてしまったのかもしれませんね。自殺だとか転落者が死んだとは限らないのですが、嫌な出来事として記憶されてしまったようです。

実は、Bさんの吐き気はいつものように帰宅する途中、彼がその光景を目撃した駅から始まったのでした。

催眠術師のひとりごとのindexへ