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催眠の実際例

2009/12/15改訂
1999/12/12初稿

相談者の言葉がそのままの意味とは限らない

著作にも書いた内容の続きです

※ご本人に了承を頂いたものを幾つか実際例としてホームページに掲載してあります。

私が催眠を用いたカウンセリングをやっていることを知っている人から、時折相談や依頼を受けることがあります。

私の場合、催眠について宣伝はあまり必要ありません。

だいたいにおいて、依頼はこのホームページを通じて私を知った方からのmailか、以前に担当したことのある方やその後家族からの紹介でお会いすることになります。

時折、勘違いして掲示板やホームページで「私は催眠の大先生だ!」煽る頭の悪い連中がいますが、そのようなことを大声で叫べば叫ぶほど変な奴だと思われて、一般の方々からは敬遠されると思います。

私は技術とか知識、経験は自らが大声で喧伝(けんでん)するものではなく、静かに徐々に浸透してゆくものだと思っています。

私が初期の頃から自分のホームページにリンクすらあまり貼ろうとしなかったのは目的が異なるから。大声で効果や技術を誇ることはむしろ逆効果で、その技術に過大な期待を抱く変な連中や、特異な部分を利用して金儲けを企むおかしな連中を引き寄せることになってしまうからです。

それでは催眠や、本来のカウンセリングの意味を歪めます。

私は口コミで十分だと思っています。催眠とかカウンセリングは一人当たりに割く時間がかなり重要になりますから、一度に多数に関わる事はできません。自ずと限界もあります。

それでも何人か知り合いや友達、後輩とか眠れなくて困ってる人などの相談に時々のっているだけで自然にお客さん(?)が増えてしまいます。人からの紹介が多い分だけ断るに断れない(笑)。過去には深夜に自宅に押し掛けられるようなことも何度かありました。

今回紹介する実例もそんな中の一つです。ある友人からの紹介で、一人の女性の相談にのることになりました。

※これは私の著作、「催眠術師のひとりごと」の冒頭でも触れた話です。

彼女の悩みは仕事のこと?

最初に聞いたのは、「知り合いの女性が仕事のことで悩んでいる。あなたのことを話したらぜひ、会いたいと言っている。相談にのってやってくれないか?」でした。

実はこの「ぜひ」というのは要注意です。

催眠をやっていることを聞いて「ぜひ」と言ってくる人の場合は深刻な悩みを抱えていることが多いものです。これは初級のテキストにも書きましたが、相談を持ちかけてくる人を気軽に考えることは危ないのです。

相談者が周囲が考えるよりも遥かに深刻な悩み事や哀しみ、過去の体験をも持っていることもありますから、対応には慎重を期すべきだと思います。

とりあえず「まず、ご本人にお会いして話しを聞くだけなら」という約束で面談することになりました。

依頼者の女性に初めてお会いしたときの第一印象は、「落ち着いた感じの綺麗な女性」でした。年齢は二十代の後半でしょうか?

仕事のできるキャリアウーマンタイプの女性です。別にイライラと落ち着かないといった感じでもなく、タバコを持つ手が震えているとか、まぶたがピクピクと引きつるような神経の昂りも見られません。

私は依頼者と喫茶店で会いコーヒーでも飲みながら普通に話かけることから初めました。

簡単な自己紹介をし、相談の内容を確かめます。まず、どういった相談なのですか?と彼女に聞いてみると、「最近、仕事のことで悩んでいる」とのことです。

ここで注意が必要なのは、相談者が「仕事のこと」だ、としか言っていない所です。仕事場の人達との人間関係がうまくいっていないのか、営業やセールスなどで実績が上がらないので悩んでいるのか、新しい仕事に転職するために悩んでいるのか、通常であれば一番最初に話す筈の具体的な話の内容がまったくありません。

悩みごとが割とストレートな場合は、最初の会話の部分でだいたいの所がわかります。

どんなことでお悩みですか? と、こちらから水を向けても「夜、よく眠れない」とか、「イライラすることがよくある」などと答えるだけで原因については今一つ要領を得ません。相談にきた依頼者が、自分から内容をはっきり言わない場合は注意が必要です。

とは言え本人が取り乱していたり、安定をなくしているようではありませんでした。その時点で催眠をかけても大丈夫であろうと判断しました。

もしかするとご本人自身も気がついていない要因、出来事や過去の体験が根ざしているのかもしれません。それらについて探し当てるため、私は彼女の心の中へのダイビングを行うことにしました。

催眠をかける環境

催眠や施術中の内容に触れる前に、催眠をかける環境や注意点について触れておきます。

私はよほど仲の良い友人や知人か、信頼関係がある方でないと二人っきりでの施術は行いません。催眠という技術そのものが誤解や錯覚を生みやすい部分がありますし、何よりトラブルが生じた場合にお互いが嫌な思いをします。

施術者(カウンセラー)には安全に配慮する責任があるからです。

催眠中に意識を失ってしまう(これをロストと言います)方もいますので、私の場合には必ず誰かの立ち合いを求めます。

どうしても安心する親族とか友人、身内がいない、立会人や家族の付き添いがない場合にはビデオや録音機材を用いて記録を残すように配慮しています。

特に女性の場合に付き添いは絶対に必要です。

この部分の努力、配慮を怠ってはなりません。これは催眠を教える際も同じことですが、依頼者や被験者が意識を失っている間に何かあったのではないかと疑われたり、催眠においては偽の記憶症候群というやっかいな問題も抱えています。

自意識を喪失している最中には過去の体験や嫌だった思い出を再現してしまい、現実と混同して意識にすり込んでしまう症例が報告されています。手術で麻酔を受けた際にあらぬことを口走ったり、深酒した時に思いも寄らない行動やトラブルを引き起こす人が出るのは、その時、ご本人を押さえている表層意識の「蓋」が外れているからです。

悪意があってのものではないんですよ。潜在意識の領域に関しては未だにわからない部分が多い。普段の人格とはまったく関係ない言葉とか態度、表情をみせる場合もあります。

どうしても、誰か(家族が悩み事の要因の場合は嫌がります)と一緒ではいやだ、とか、立ち合いの相手の時間の都合が悪い場合は、長廻しでビデオに取るよう心がけています。日時とかのカウンターがついていますから本人が時間のロスト(感覚がなくなってしまうこと)を起こしたり、記憶の喪失を起こした場合でも安心です。

撮影したビデオテープは相談者の方に渡すようにしています。

外で施術を行う場合、以前はカラオケボックスなどを使用していました。

自宅などが環境としては一番いいのですが、ペットや子供さんがいたり電話が鳴ったりすると意識を集中できません。カラオケボックスなら適度に防音が効いていますし、相談者の自宅や職場に近いなど、都合の良い場所を選んでもらえます。

相談者の方の金銭的な負担も少なくてすみますので、以前はよくカラオケボックスで行っていました。今回は立ち合い人に彼女の友達を選び、カラオケボックスで施術を行ってみることにしました。

※最近は当方の事務所か、相手のご自宅が主な施術場所になっています。

初めて見る人はかなり驚く

今回の場合などは、相談者自身が自分が精神的に不安定になったり不眠に陥る、イライラしている原因に気がついていないのではないか、と思われました。

本人はイライラすることが多いのでなんとかしてもらおうと思って来ただけですが、問題の根は表面的ではなくもっと深い場所にありました。

手順通りに催眠をかけて行きます。(詳細は省きます。催眠の技術的な問題、誘導方法については各種書籍やテキストを参照してください)電車のイメージ、エスカレーターや階段などの手法、フラッシュライトを使って催眠をどんどん深化させて行きます。

催眠がかなり深くなったと思われる時点で、私は質問を開始しました。

「あなたは、なぜ、仕事のことで悩んでいますか?」

彼女の友人は傍らで固唾を飲んで見守っています。催眠に被験者がかかっている状況を初めて目撃する人の多くは衝撃を受けます。異質にも映りますし過去に体験がない分だけ驚かれるようです。かかっているのが自分の知人や親友、家族である場合には現象を否定できませんから尚更、驚きが大きくなるのでしょう。友人には静かにしておくように念を押してから誘導を進めてゆきます。

「仕事を・・・。仕事を辞めたい」

「どうして仕事を辞めたいの?」

私がそう問い掛けると、彼女は口ごもっていました。

紆余曲折、なかなか出てこない問題の本質

「心配しないでいいですよ。私はあなたの力になりにきました。なにも恐くはありません。身体の力をらくに抜いて・・・。安心して言って下さい」そう指示するとしばらくの逡巡(しゅんじゅん、迷い)があった後、彼女は、

「結婚がしたいから」と答えました。

これは相談のあった時点で予測がついたことですが、私は最初から仕事の相談ではないな、と思っていました。悩み事に具体的な発言が少ない。事前のカウンセリングの時点で不自然さがありましたから何らかの他の相談、別の悩み事であるとの推論が成り立ちます。

ただし、結婚の相談ならこれも少々不自然です。何も私に隠す必要はない。それに結婚の相談なら本来は恋人や友人、家族にするでしょう。占い師に相談するにしても「結婚のことで悩んでいます。この人でいいのでしょうか?」とか、「この人と結婚できるんでしょうか?」という質問になるはずです。

相談の内容が「仕事のことで悩んでいる」と彼女が表現し内容がすり替わっていることに、この問題の本質があるはずです。

そこで私は、もう少し突っ込んだ質問を繰り返すことにしました。

私:「あなたはなぜ、結婚したいのですか?」

相談者:「幸せになりたいから」

私:「なぜ結婚できないの?なにか問題があるの?」

相談者:「結婚しても幸せにならないから」

私:「なぜ幸せにならないの? 今付き合っている彼ではダメなの?」

相談者:「彼とは結婚できない」

私:「なぜ、彼ではダメなの?」

相談者:「彼が浮気をしたから」

ここで、やっと問題の糸口が見えてきました。

相談内容の要約

どうやら仕事の相談ではなく恋愛の相談で、それも相手の浮気から結婚を考えていた彼女(被験者、相談者)はそのことを憂いて(うれいて)悩みの無限ループに捕まったようです。

誰かにそれを相談したいと思ったものの、内容が内容なのでストレートには相談できず仕事を辞めることで全てを絶ち切ろうと思ったのでしょう。ですから、仕事の相談、というのもあながち誤りではありません。もちろんご本人は嘘をつくという意図もなかったと思います。

私:「彼を許すことができませんか?浮気をした彼とでは幸せな結婚はできませんか?」

相談者:「できないと思う」

私:「それはなぜですか?」

相談者:「彼が何年も前から浮気をしてたから」

私:「あなたは彼と付き合って何年になりますか?」

相談者:「8年になります」

私:「彼は浮気相手の女性と何年付き合っていたの?」

相談者:「10年になると思う」

話を要約すると、彼女には長く付き合ってきて結婚の約束をした男性がいるそうです。

ところが、その男性にもう一人付き合っている女性がいることが発覚しました。その相手と男性の関係は彼女とつき合い始める前からの関係で、男性の仕事上のパートナーでありパトロン(スポンサー)だそうです。

彼は自営業を開始する際に、もう一人の女性の方から多額の借金があってそれを返済するまでは彼女とは別れられない、と主張しているようです。

劇的な場面の転換

相談者:「何年も前から浮気している彼とはどうしても一緒になれない」

私:「それは、なぜ?」

ここまで質問が及んだ後、場面の劇的な転換が起こりました。

催眠中は時々起こるのですが、問題の核心に触れると、原因となった過去の出来事が一気に表面へと浮上するのです。異常反応や過激な反応を示すこともあり、施術者には注意が必要です。

相談者:「お父さんが・・・。お父さんが・・・。」

その後の会話が長くなったので、私がまとめます。

彼女が子供の頃、お父さんに連れられて遊園地にいったそうです。彼女には双子の姉が居り、一緒に遊園地へ出かけました。幼稚園に上がる前だったそうですので、だいたい3、4才の頃でしょうか?

お父さんと遊園地にいってみると、そこに見知らぬ女の人がいました。お父さんと子供達二人、それにそのお姉さん?を含めて四人で一日、楽しく遊んだそうです。

その日の帰りにその「見知らぬお姉さん」か、お父さん本人が姉妹に口止めしたのか、姉妹二人が気を遣ってそう決めたのかはわかりませんが「今日のことは、お母さんには絶対に内緒にしとこうね」になってしまったようですね・・・。

お父さんが子供の記憶力を甘く考えて、二人に自分の浮気相手を引き合わせてしまったことと、二人の姉妹がお姉さんと「楽しく」遊んだことが二人の心のなかにトラウマとなって暗い影を作ってしまった模様です。

その「お姉さん」が嫌な人であったのなら、彼女は苦しまなかったのかもしれません。少なくともそれほど深刻な心の傷にはならなかったはずです。楽しく一緒に遊んでもらった、ということが彼女のなかに罪の意識を作り上げ、「お母さんにすまない」といったマイナスの感情を生んだのです。

彼女は「お母さんと同じになる」(信頼し、結婚しているお父さんに裏切られる)ことを恐れ、「浮気をする人とは絶対に一緒になってはいけない」という感情を持つに至ったのでしょう。

ここからは私の推論に過ぎませんが、お父さんとその女性の関係が長く続いているように彼女(達)には感じられたのでしょう。だからこそ、長く浮気してきた彼を潜在意識下で同一視してしまい、どうしても許せなかったのです。

その後、催眠から目を覚ました彼女は、お父さんがその時だけ浮気したのではなく、しばらくその人と継続して付き合っていたはずだと証言しました。

幾つもの要因、偶然の重なり合い

彼女の目が覚めたときの第一声は「そっか、お父さんだったんだ」でした(笑)。

「おい、おい、ちょっと待って、それは違います」 私は慌てて否定しました。確かにお父さんとのエピソードは一つの要因ではあります。今回のトラブルを引き起こす要素の一つではあるでしょう。でもそれはあくまで、「要因」にすぎません。

彼女の付き合っている彼が「たまたま」浮気をしていなければ今回のトラブルは起こっていません。そしてその彼の浮気の相手が「偶然にも」何年も前から付き合いが続いていた、ということがなければそんなには悩まなかったでしょう。そして彼女がその彼と「結婚したい」と考えていなければ、問題にはなっていないかもしれません。

そういった要因の積み重ね、偶然の一致の繰り返しが、彼女の二十代の後半という年齢的なことも手伝って「仕事は辞めて家庭に入りたいのだけれど、お母さんのように騙されるのはイヤ!」といった複雑な感情に囚われたのではないかと推測されます。

彼女がお父さんのこともお母さんのことも、そしてお父さんの浮気の相手に過ぎなかった「優しかったお姉さん」のことも嫌いになれなかった、つまり子供らしい優しさと配慮を持ち合わせていたこと、聰明さを持っていたことが問題をより複雑にしてしまいました。

たくさんの要因が重なり合って、初めて一つの原因になるのです。決してたった一つのエピソードが問題を引き起こすのではありません。

「子供だから」と安心して浮気相手に引き合わせてしまったお父さんの判断の甘さは確かに問題です。

でも実際には彼女が良い男性に恵まれ、付き合っている男性が浮気しなければ、もしくは浮気をしてもその浮気の相手が、お父さんの時のように長期にさえ渡っての関係でさえなければ快く許してあげられたのかもしれないのです。

心の中には引き出しがいっぱいある

人の心の中は細かく仕分けされています。その分類、引き出しや仕分けは過去の経験や記憶によって形造られ、小さなものから始まって上に進むにつれ、段々とサイズが大きくなって行きます。

タンスに喩える(たとえる)なら下に行くほど引き出しは小さく、そのかわり厳重に鍵がかかっているものと考えてください。幼少時の記憶は思い出すことは少ないのですが、その人の根本、人格の基本となるものです。

通常は上の引き出しから開いて行くのです。上の引き出しほど緩やかで開くことに抵抗はなく、鍵もかかっていません。簡単に開いてしまいます。

実際には引き出しの中に詰まっている経験=記憶と照らし合わせることで、人は次々と起こってくる現実の問題や自分の「その時の感情」に対応しているのです。

上の引き出しが簡単に開くからといって、トラブルに見舞われることは殆どありません。大人として精神が成熟したり、経験を積んでからのトラブルは大抵はごく表面、記憶の上の部分で対処できるからです。

ですが稀に、その上の引き出しの中に次へ引きだしへの鍵(キーワード)が入っている場合があります。その鍵は今開いている引き出しよりも下の階層にある引き出しを開ける鍵となります。次の引き出しを開けると、そのまた下の引き出しを開ける鍵が開いてしまいます。

次々に記憶が連鎖することで本来、簡単には開かないはずの一番奥、または一番触れて欲しくなくて本人が厳重に管理、警戒している心の奥底の部分にあっさりアクセスしてしまい、たどり着くこともあるのです。

たくさんの要因が集まってしまうと、トラブルを引き起こす引き金となる場合もあります。お父さんの取った軽はずみな行動が今回のトラブルの全ての原因ではなく、たくさんの要因と偶然が複数、重なり合うことで起きてしまった不幸な事故のようなものだ、ということを彼女に時間をかけて十分に説明しました。

もう一度、催眠を深化させて問い掛ける

彼女の場合はこの「鍵」が、たくさんの偶然によって開いてしまったのです。

彼女のケースで幸いであったのは御両親が今は仲が良く、離婚したり喧嘩したりを繰り返す関係には至っていなかったことです。彼女自身、御両親を尊敬しており、お父さんのこともお母さんのことも信頼して大切に思い、好きだとはっきり言いました。

結果として今回のトラブルは彼女が御両親を尊敬し、どちらのことも嫌いになれず、「お母さんがかわいそうだ」という気持ちと「お父さんも好きだし」といった感情で板ばさみになって起こった訳ですが・・・。

難しいものですね。優しさと尊敬の感情、思いやりからご本人が苦しむ例も多々あるのです。彼女だけが特殊な例というわけではありません。

そこで私は彼女にもう一度催眠をかけ直し、そこの部分から改善を試みることにしました。

私:「お父さんとお母さんは仲が悪いですか?」

相談者:「いいえ」

私:「あなたはお父さんは嫌いですか?」

相談者:「いいえ」

私:「今、お父さんはお母さんをいい加減に扱っていますか?愛情を感じられませんか?」

相談者:「いいえ、とても大事にしています」

私:「お父さんは今も、浮気をしていると思いますか?」

相談者:「いいえ」

私:「もう一度聞きます。お父さんが嫌いですか?」

相談者:「いいえ」

私:「浮気をしていたお父さんは許してあげれませんか?」

相談者:「いいえ、でも、お母さんがかわいそう」

私:「お母さんはお父さんのことが好きだと思いますか?」

相談者:「はい」

私:「お母さんはお父さんの浮気のことを知っていると思いますか?」

相談者:「もしかしたら、気がついていたかもしれません」

私:「お母さんはお父さんを許してあげていませんか?」

実はここの部分、この一連の問い掛けや受け答えこそがが重要なのです。今も家庭で御両親の間がうまくいっていないとしたら、この問いかけは逆効果となります。

ここをうまく行わないと「お父さんは悪いことをしたから、お母さんの許してもらえないのが当然なんだ。だから私もそうしなきゃ・・・」といった悪い動議付け、悪い方向づけの根拠となってしまうからです。

相談者:「お母さんは、今はお父さんを許してあげてると思います」

確認するための作業

私:「お母さんが許してあげてるのに、あなたはお父さんを許せませんか?あなたはお父さんがきらいですか?」

相談者:「そんなことはありません。お父さんはずっと好きです」

私:「お父さんはお母さんを好きじゃありませんか?お母さんはどうですか?今、二人は仲が悪いですか?」

相談者:「仲はとてもいいです」

私:「あなたは、お母さんのようにお父さんを許してあげれますか?」

相談者:「はい」

彼女のこの答えは初めから予測できたものです。いわば確認作業に過ぎません。ですが、施術者が被験者に催眠をかけ、ご本人から回答を引き出すことにこそ意味はあるのです。

御両親のどちらかを一方的に嫌いになれるとしたら、そんなに悩んだりしません。お父さんが好きで尊敬していて、昔のことだから許してあげたくて、それでも同じくらい好きなお母さんがかわいそうで同じ立場に立った時、女としてどうしても納得できなくて・・・。

おそらく、そういったものの板ばさみで苦しんだのだと思います。

先にも言った通り御両親のことは要因の一つにすぎませんが、複雑に絡み合うことでご自身にも影響が出てしまったのでしょう。

お父さんのことはここまでで一段落、状況は確認しましたので、ここから本題である彼女の彼や結婚のことについて解決を計って行きます。

私:「質問を変えます。今、付き合っている彼がいますね」

相談者:「はい」

私:「その人のことが好きですか?」

相談者:「・・・。わかりません」

自意識、表層意識が弱まり、本心の覗く瞬間

過去にあった出来事の問題の解決を計り、「彼を好きか?」と尋ねたとき、「わからない」と答えるのであれば、かなり煮詰まっていると考えた方がよいでしょう。

これまでの経緯から考えて、本来彼女は彼との関係を修復したい、許したいとの感情もあって板挟みになったのですから。

私:「なぜ、わかりませんか? あなたはこれから彼とどうしたいですか?」

相談者:「わかりません」

ここまで話すと彼女は涙を流し初めました。不思議に思うかもしれませんが、催眠中であっても人は涙を流します。そしてその「催眠中の涙」は通常の場合とまた違った意味合いを持ちます。

催眠中は心の上に被さっている普段の体裁やカッコつけ、見栄の部分があまりみられません。表層意識や自我の一部が薄まっているのです。いつも強がっていて、他人に隙を見せまいと頑張っている人ほど、催眠誘導中は早く泣いたりします。これは飲酒や薬物(麻酔、睡眠薬や催眠誘導剤)においても似通った性質をみせます。

悲しいことに人間は自分の心を素直には表現できません。自分の心をストレートに表現し、それを否定されることは自身の全てを否定されることにも等しいからです。好きだ、という気持ち、嫌いだという感情、色々な気持ちや感情を押し殺してしまうことで、人はかろうじて自分を保っているところがあるのです。

ここで彼女が泣いてしまったこと、そして彼との将来についての質問に「わからない」と答えるところに私は胸が痛みました。

私:「彼のことが好きなら、お母さんのように許してあげて結婚したり付き合って行く方法もありますよ」

相談者:「もう苦しい・・・。だから、やめたい」

催眠中に彼との将来について問われ、「苦しいから、もうやめたい」と答える彼女は普段の生活の中で、泣いたりすることは殆どなかったのでしょう。いつも顔をあげて朗らかで、うつむかないように懸命に生きてきたんだと思います。

この部分は私の推測に過ぎませんが、彼との8年にも及ぶ付き合いの中でも何度もやめよう、と思ったことがあったのではないでしょうか?

そう考えると、彼女が「わからない」「もう苦しいからやめたい」との言葉は彼女の本心、心の中の叫びにも聞こえるのです。

解答は相談者本人の心の中に

私は催眠中、答えを誘導するようなことはしません。答えは私の言葉や経験の中にあるのではなく、その人の心の中にこそ存在するものだからです。

催眠誘導とはその名が示す通り、被験者の心を誘導するためにあるのであって答えを強引に押し付ける者ではありません。私にも経験や感情はありますから、明らかにここはこうした方が本人のためではないか?と思っていても私はそういった誘導は行わないのです。

全ての行動は、ご本人が自分の意思で決めることだからです。いくら催眠といえど、たとえそれが善意から出た言葉であっても、本人の意思を無視しなにがしかの思惑を押し付けたるならそれはもう、すでに催眠とは呼べません。

洗脳です。

施術者、催眠誘導を行う者は神であってはなりませんし、本人の意志ですべては決まらなければなりません。

生きてゆく、歩いてゆく時には誤っていてもいいんですよ。間違いのない道筋なんてのは最初からありえません。火傷をしたり、嫌な思いをすることもあるでしょうが、真摯に向き合うのなら、理解者や支援者も現れますし、ご本人の経験として後から生きてきます。私自身もそうやって少しづつ成長してきたのだと思います。

催眠も含めて、廻りの人達が本人に対して行うことはアドバイスに過ぎません。「こうした方があんたのためなんだ!!」といくら強制した所で、本人の自由な意思のない状態では長続きしません。いくら苦しくても悲しくても、本人の意思で進む方向を定め、歩いて行かなくてはならないのです。

彼女自身が悩み、苦しんだ上での結論でしょう。そこに私が意見や感情を挟む必要はありません。

ここまでの過程、確認の作業はすでに彼女自身が出している答えを思い出すため、その部分を見失って時間を更に失ったり傷が深くならないために行ってきたものです。本来、催眠やカウンセリングとはそういった方向性で用いるのがベストだと私は考えています。

ほんの少しばかりのお手伝いを

彼女はかなり自分の年齢のことで悩んでいるようでした。20代後半でそろそろ30代にさし掛かろうとしています。

不思議なものですね。

日本の女性は30代になることを異様に気にします。海外ではそこまで神経質な人は少ないと思いますよ。適齢期なんて表現もあまりしません。その言葉そのものがセクハラ、パワハラ(Power Harassment)になってしまいますから(笑)。

この女性は見た目はかなり若く見える上にスタイルも良いのですが、もうすぐ30代になることで不安に陥ったようです。結婚相手がこの次に見つからないのではないかという不安から、ここ数年はかなり無理を重ねてきたように感じられました。

どうもその彼というのがあまり良い人とは言えないようで浮気相手の女性ばかりではなく、彼女自身からも多額の借金があるようでした。話を聴いているとあまりに状況がかわいそうな気がしたので、少しばかりお手伝いをさせて頂きました。

彼女に自信がつき、同じ相手と同じ失敗を繰り返さないように、本来は行わないある暗示を追加しておきました。

「あなたは年齢よりも若く見える。そしてとても若返る」

「とてもステキで異性から見ても魅力的な女性に見える」

という暗示と

「あなたが今までの彼と同じくらい誰かに愛情を注ぐなら、きっと今まで以上にあなたを大切にしてくれる男性が現われますよ」

という言葉を老婆心ながら追加しておいたのです。

これは私本来の心情や立場、スタイルからは少々反します。私自身は被験者の環境や状況、背景の把握に勤めることが多くて積極的な介入は行わないのが普通なんです。

ですが、今回だけは特別に少しだけ介入を行いました。

この方が優しい女性で、誰かを信じ支えようと頑張ってきて精一杯の姿、心情を表に出せなかった苦しみに思いを馳せました。と同時に、やっと少しだけ自分の心を表に出してくれて「私を信頼して」泣いてくださった彼女に少しくらいのプレゼントや応援は許される範囲ではないか?と思ったからです。

心配そうにみつめている彼女の友人、わざわざ私を紹介してくれた知人のためにも、少しでも彼女が安らぐ方向、勇気をもてる方向に導こうと考えました。

「あーぁ、気持ちよかった!」

興味深いのは、このあと催眠から目を覚ました彼女の第一声です。彼女は起きた瞬間に大きな伸びをして

「あーぁ、気持ちよかった!」と嬉しそうに笑いながら目を覚ましたのです。これはみていた私たち(特にご友人)のほうがビックリしました。

誘導を行っている最中は苦しげでした。哀しいことも話さなければならなかったですし、苦しさもあったでしょう。

ですが、目覚めたらそんなことはまったくなかったかのような気持ちよい目覚めでしたね。まるでおとぎ話で眠れる森の美女が夢から覚めた時のような感覚で、見ていた側からすれば非常に印象的でした。

それどころか側で心配そうに見ていた友達に「気持ちよかったわよ。あなたもやってもらったら~!」と何事もなく語ったことです。

これには私もびっくりしてしまいました。

ちなみにこの時点で3時間が経過しています。

催眠にかかっている本人にとっては一瞬のことのようにに感じるのですが、実際には数時間から数日もリーディングにかかったこともあり、私(施術者)は大変ですよ。状況によって変化しますが、心の奥底までを触る誘導は長時間に及びます。

私は毎回、へとへとですよ。

番組の収録や公演で300人くらいかけたことが何度かありますが、精神的肉体的なエネルギーを消費してフラフラです。体温を計れるカメラ(サーモグラフィー)で写したら、盆の窪と呼ばれる場所や眉間だけが高温で光っていました(笑)。なんか出ているんでしょうか?

念のため彼女に催眠中のことについてどれくらい覚えているのか質問してみました。

子供の頃の遊園地の話から始まって、お父さんやお母さんの話まで、ほとんどの記憶については残っているようでした。彼女は時間のロスト(長さを失うこと)はあったようですが、意識の喪失は殆どなかったようです。ですから説明も簡単に済みました。

ただ、面白いのは私が彼女に最後に追加した言葉だけが、彼女の記憶のなかからすっぽりと完全に消失していたことです。

この時点で私は「ああ、うまくいったんだ」と思った。

消えていた部分は彼女に私が「見た目より若く見える」といったことと、「魅力的な女性に見える」といったこと、「次の男性が必ず見つかる」といったことなどです。

この内容が表面の意識の中から「形式上は」消えていることで、私は「彼女の中に自信が芽生える」と思いました。

しばらく後で連絡を戴きました

催眠で言った内容が完全に消えてしまう訳ではありません。むしろ、表面には覗かない状態、被験者に聴けば「覚えていない」ことこそが、本人の内側に残されているのです。

目には見えない「言葉のプレゼント」ですが、心の中の残像のようなものです。

その日は誘導カウンセリングを終え、そのまま別れました。最後に双方で連絡先を教え合っただけです。携帯がそこまで普及していなかった時代なので私の個人事務所の番号を教えておきました。

しばらくして彼女を紹介してくれた友人から連絡がありました。

「彼女、すっかり明るくなってね。そのうち自分で電話すると言ってるけど、その前に私からも先生にお礼いっといてくれって言われちゃった」

余談ですが、私はこのホームページの開設当初からずっと言ってきていますが、私は自分のことを「先生」などと呼ばれるのは好みません。

催眠はできるし知識は多少はあるが医者ではない。そう考えれば「谷口」さんか谷口君が適当でしょう。

ネットでは特に多いようですが、自分を大きく見せようと肩書きや背景にこだわる人達がいます。私の場合は少なくとも、自分が「先生」と呼ばれるためとか、偉ぶるためにこういったサイトを立ち上げたのではないから。

学校の先生にもあまりいい思い出がないので嫌いです(笑)。ネットでヘンテコな団体立ち上げて催眠団体の理事だとか代表だなどと言い張ってる連中が「死ぬほど嫌い」です。

ですので、今も私は自分を先生だとは思っていませんし名乗ってもいません。名刺に催眠術師だとか先生だとか、変な団体の名前や理事だと書き込んで悦にいる習慣はありません。

「新しい彼ができたんだって。今とっても幸せだそうよ」

その言葉を聞いて安心しました。

催眠誘導中には苦しそうな表情もあった。誤解や錯覚、不幸な偶然の一致の繰り返して彼女ご自身の苦しんでいる部分がありました。

「あー、きもちよかった」とい泪を拭いながら起きてきた眠れる森の美女が、新しい王子様を捕まえて優しくしてもらってるならば、これに勝る喜びはないですね。

それこそが催眠術師冥利(?)というかカウンセラー冥利に尽きます。

今度こそ、彼女が幸せになればいいな、と願います。

※今回の掲載についてはご本人の了承を得ています。同じような悩みに苦しむ方のいくらかでも参考になれば、ということで快く了承していただきました。ただし、個人情報(名前や住所、都市名)については一切を伏せさせていただきました。

著作の冒頭に書いたシーンは、このコーナーからの抜粋です。こちらのコーナーが先に描かれました。良ければ、合わせて参考にして下さい。

1999年12月12日 改定

2009年12月15日 加筆、修正

谷口信行

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