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偽りの記憶症候群について

2010/08/19改訂
2000/04/10初稿

偽りの記憶を生じさせてしまうこともある

カウンセリングと違う部分もある

催眠誘導の方法には幾つかの方法がありますが、基本的には同じです。

まず、被験者との間で状況の聞き取りを行います。ご本人だけではなく周囲のご家族や友人も含めた上で信頼関係(専門用語ではラポールと言います)を築きます。

軽い催眠(導入)を行って異常反応等(テキストをお持ちの方は初級講座、最終章を参照)がないかどうかを確かめた上で深化を進め、深いトランス状態に導きます。

催眠が深化した後、過去の出来事などの中から現在起っているトラブルやイライラの原因を突き止めることで問題の解決を計ろうとする場合が多いでしょう。そこに至るまでの方法や技法は様々にありますが、顕在意識を遠のかせ、心の奥底にアプローチをかけようという所は同じなのです。

ただし、催眠誘導においては施術側がよほど注意して行わないと起こってしまうトラブルがあります。

勘違いされてしまう方がいますので、ここで解説を加えておきますが、被験者から何かの情報をひき出そうとする場合、カウンセリングのやり方が時に当てはまらないケースがあります。

「催眠誘導でトランンスに至るまで」は、確かにカウンセリングと同じと考えていいのです。「催眠誘導」に成功し、「深化」してからは同じではないことに留意して欲しいのです。

催眠中は自意識、つまり自我と呼ばれる表面の蓋(ふた)が外れています。

意識がある時には自意識は外れていません。顕在意識ともいいますが、一種のフィルターがかかっている状態なので、こちらが問い掛けや質問を行っても極端な歪みが生じることはなく、自分の経験とか感情から解答を探し出します。

ところが、催眠中に無理な問い掛けとか追加でどんどん質問を行うと、その質問に答えようとするあまりに別の記憶とか体験、イメージを引っ張り出してくる事例があるのです。

それが今回解説する「偽りの記憶」症候群と呼ばれるものです。

連想方法が難しい

カウンセリングにおいて行われる問い掛けや連想法は、相手の心を知る重要な手がかりとなります。

相談者に直接的に内容を聞くのではなく、漠然とした質問、悩み事とか生活とはまったく関係のない質疑応答を繰り返し、その反応の中からヒントを探り出そうといった手法ですね。

箱庭療法やロールシャッハテストなどもその範疇(はんちゅう)に含んでも良いでしょう。絵を描かせる、何かの文章を書かせるなどもそうですが、大ざっぱなテーマ(例えば、行ってみたい場所は?とか、木を絵で描けなど)だけにして全体からヒントを探します。

狭い範疇とか問題の中枢(例えば、現在の悩み事はなんですか?など)については、触れないで行う方法です。その時々に思い出された内容や記憶、咄嗟に相談者が考えた脈絡もない言葉などを聞き取って、何らかの解決の糸口にしよう、と考えることです。

具体的な部分にいきなり触れてしまうと心理的な抵抗があります。無意識の領域を確認するため、一見、何の意味もなさそうな手順や図形を見て何か感じ取ったり、他のテーマで書かせることで解決に至るプロセスを求める方法ですね。

これは催眠中でなくて一般的なカウンセリングにおいても同じです。

現実の相談において「悩み事が何か?」が具体的に特定されている例は少ないでしょう。

なんだかわからないが「イライラする」とか「不安を感じる」「寝つけなくなった」「うなされる」「酒の量が増えた」などが多いと思います。

問題が「仕事にあるかも?」と思っていても、辞めれば生活が成り立たちません。恋愛においても相手をいきなり失えば喪失感が大きい。だから認めたくはなくなります。

必死に心の修復や関係の改善を計っているのです。ですからご本人にストレートに「悩み事は何ですか?」と聞いてもまず答えませんよ。

それは「問題ではない」と思い込んでいる例は非常に多い。本人にも問題の根本が見えていないケースが多く、なぜならば「そこを自ら認めてしまえば」自分自身が傷つくのです。

覚醒中(目が覚めている状態)においてはどんな質問でも構わないでしょう。そこには本人の持つ意思(顕在意識)によって選択が行われ、自分に苦痛である話や内容は自然に除外されるのですから。多少、質問者が未熟であってもお終いです。次から相談に来なくなるだけで済みますから。

ところが、深層催眠を行い深いトランス状態にある被験者に、選択的な質問や誤った指示を行った場合は時に困った問題が生じてきます。

例えば誘導者が「あなたは何歳に戻っています」と退行催眠を用いた後とします。その時「あなたは、そこで何かをみた筈です。あなたは何を見ましたか?」と言ったとします。

幼い頃の記憶が曖昧で、被験者が返答に戸惑っていると「あなたは◯◯を見た筈なんです。さあ、何が見えたか言いなさい!」などと質問者が追い討ちをかけた場合、被験者は慌てて「何か?」を探します。

そういった質問を繰り返した瞬間に、「被験者の中で」勝手にイメージが出来上がってしまいます。

過去にあった実例

初心者がよく陥る勘違いですが、カウンセリングとか催眠は取り調べじゃないんですから・・・。犯人探しが全てではないんですよ。

「誰が悪い」「これが悪い」と決めつけても問題は何も除去できません。

必要なのはご本人の自覚とか認識です。先にも触れましたが、苦痛であったり失うことが怖くて認められないケースが多々あるのです。それが原因であるとご本人が納得して受け入れてしまえば、悩みそのものが軽減されているでしょう。

必要なのは「自分自身の心の説得」なんですよ。

原因の特定のために記憶の断片とか過去を拾い出す必要性はありますが、相談者(催眠においては被験者)を追い詰めることで得られるものは少ないでしょう。

「○○について話せ!」と、被験者に何度も聞き返したとしましょう。

そういった質問を繰り返せば、被験者は苦しそうに眉を歪めながら必死に自分の記憶の中から何かを探し出さなければなりません。

被験者の苦しげな表情をみて「今、自分の過去の記憶を探してるんだ」と勘違いする施術者や先生もいるようですが、実際には「慌てて偽のイメージを製作中」である可能性も残されます。

潜在意識と呼ばれる領域はかなりの広範囲に及ぶと考えられます。ですから、「何でも自由に」と指示してしまうと現実と夢との判断がつかず、区別のつかない出来事を見たり聞いたと錯覚してしまう場合があります。

おそらくは、ある程度、条件を絞り込んでおかないと偽の記憶を生じさせやすくなります。

(施術者、被験者共に)このような過ちは結論を急いだり、普段、高圧的な感覚を滲ませる人によく起こります。また催眠を過信していたり、異様に効果を強調するような人にも起こり得る錯覚です。

過去にはそういった誤った誘導をきっかけに重大なトラブルが起きています。

その時間にそこにはいなかった筈の人とか、事実関係や証拠からは明らかにおかしいのに「間違いない」と主張するケースがあるのです。アメリカなどで催眠誘導を行う施設やカウンセラーが増えるにつれ、そういった問題が生じてくるようになりました。

特に催眠誘導が盛んであった1970〜1980年代において、そういった例の報告が数多くあります。

性的な暴行を受けた、として娘が実の父親を警察や裁判所に訴えた実例があります。実際に父親は逮捕拘束されてしまい裁判で激しく争ったのですが、その時間その場所には父親は居らず、行った先で買い物したレシートや証言から「別の場所で複数の友人と」会っていたことが判明します。

証言ばかりではなく写真等も残されていたため、娘の証言は「錯覚ではないか?」と受け取られました。娘が「嘘をついた」とか「何かの思惑で父親を貶めようとしている」のではなく、あまりに真剣であったので、催眠誘導中の何かの問い掛けが引き金となって、偽物の記憶を形成したのではないか?と考える研究者がいたのです。

それが後に「偽の記憶症候群」と呼ばれるものの研究へと繋がってゆきます。

現実と同じだけのイメージ

精神的なトラブルや社会生活における問題を解決するために施術に取り組んだのに、それが結果として起きてもいない出来事を作り出してしまい、トラブルを生じさせるケースもあります。

人間の記憶とか心は複雑ですよ。心の中で何が結びついて、そういった「偽物の」イメージを生み出すのかはよくわかっていません。

誘導とか質問には注意しないと複雑な問題を引き起こす例があります。

偽物の記憶を生じさせてしまうと、ご本人は目が覚めた際に「私は過去に実際にあれを見たんだ!」「あれがあったんだ!」といった感覚を強くします。現実では無いとなかなか認識できません。白日夢やあやふやなものではなく、現実に起きた映像として記録されています。

これが難しいんですよ。かなり経験を積んだ誘導者でないと判別ができません。安易に「何か凄いものが出てきた」と思い込んで問い掛けを繰り返すと内容はどんどん歪んでしまいます。

前世体験とかね。UFO体験などでもそういった失敗例は相次いでいます。

体験した人しかわからないでしょうが、催眠による幻覚は強烈ですよ。匂いや音すら再現できます。現実との区別は殆どつきません。

催眠によくかかる人を集めれば私自身が「空を飛んでみせる!」ことも再現可能になります。実際には空なんて飛んでいませんが、私自身が浮かび上がっているようにみせること、空の色や風の香り、雲から振り付ける雨や稲光を感じさせるなどはそんなに難しくはないのです。

心理学や催眠のテクニックを応用すればできます。スモークとか幻覚をみせる薬や抗うつ剤や精神安定剤、幻覚性の薬物でも使われれば、一般の人はひとたまりもないでしょう。絶対に見分けとか区別はつきません。

前世なるものを作り出すことも簡単ですよ(笑)。現実に近い映像ですら作り出せるのですから・・・。過去世とか前世のように確認できないものなら尚更、楽勝でしょう。

先入観に基づいて「あなたの前世に向かいます」と催眠をかけた時点で、あり得ない錯覚を生み出す可能性すらあります。

※1750年代の全世界の人口は約8億人です。2010年の人口は68億8千万人。単純計算では前世の数が「8倍」足りません。その殆どが平民や一般市民です。

前世で中世ヨーロッパの貴族の生まれ変わりだとか、日本の武士の生まれ変わりを主張する人がいますが、更に数が激減しますね。おそらくは数百分の1以下でしょう。なぜか、生まれ変わりを主張する人にはお姫さまやお殿様、有名な宗教家とかがいっぱいです(笑)。

一度、錯覚が生じてしまうとそれは現実と同じだけの重みを持ちます。

その体験をした、とご本人が訴える時間帯に出張などで家にいなかった、物理的にそういった行為を行うことが不可能だと法廷で明らかになっているにも関わらず、強硬にそういった主張を繰り返す例もあります。

「偽りの記憶」を生じさせてしまい、憎しみから訴訟にまで至るような痛ましいケースもあります。私はこれらの問題は誘導方法を過ったり、過った働きかけやきっかけ、また強引な誘導を行うことで生じてくる問題ではないか?と思います。

難しいのは実際に虐待を受けたケースと、そうではなく、ただの記憶の混乱とか、何らかのきっかけとか誤りから起こる「偽り」とが見分けにくい所ですね。

一度、偽りの記憶が出現すれば、それはまるで現実の出来事と双児の姉妹、一卵性双生児のようにそっくりです。自分自身でも区別がつきませんし、他人(誘導を行った側)にもわかりません。

ご本人も本気で「間違いない」と主張しますから・・・。そこには何の悪意も存在しません。ですからポリ・グラフ(うそ発見器、発汗や心拍数、脳波の動きを記録)でも何の反応も得られないでしょう。

見分けることは非常に困難になります。

ピースや記憶の断片を拾い上げる作業

未熟な施術者が事前に何らかの先入観や思い込みを持っていて、相手にそれを押し付けようとしたり、(施術者が考える方向性が)「正しい!」と一方的に思い込んでいる場合、そういった可能性や危険は大きくなります。

何かの目撃談を話させる場合に催眠誘導を行うと、素晴らしい成果を得る場合があります。

事故でぶつかった衝撃で記憶が混乱することがあります。車はおろか原風景、車種や年式、色、大きさ、乗っていた人数やナンバープレートに至るまで正確に再現する例が過去にはありました。

そういった例に当たると「催眠はどんな記憶でも正確に再現するんだ!」といった期待と錯覚が生じやすいですね(笑)。こういった仕事、技術に携わる者としてその気持ちは十分にわかります。

ですが、そのままでは誤りです。技術に対する過信というか、人間の無意識の領域に対する期待、「個性」という個体差を無視することになります。

残念ですが、催眠を用いても個人差があります。素晴らしい再現能力を持つ人もいますが、まったく表に出てこない人もいますよ。

体質というか無意識の領域や個々の記憶力の差です。これも、実際には対象者と向き合ってみないとわかりませんね。

私は「○○をみましたね?」などといった誘導は行いません。錯覚を生みやすいですから・・・。催眠の実際例の相談のコーナーも参照して欲しいですが、被験者の自発的な意思による「心情の吐露」(心の内側を表に出すこと)が望ましいのです。

テーマを絞り込まず、時間軸にだけに留意します。被験者が「見た」内容を具体的に指定しないで全体を聞き出すようにします。すると、無関係なイメージとか偽の記憶は生じません。その時、その場所、その時間に見たものを、ほぼ正確に再現します。

解読がとても「難しいパズル」になってはしまいますが、そのほうが後々「正確に読める」のです。催眠中に固定の出来事だけに「執拗な問い掛け」は行いません。

私はむしろ、部品集めを中心に丁寧に行います。

その後、散らばっていた点を線に線を面に、一枚の「絵」としてまとめます。何の脈絡もなかったピースが一つにまとまる瞬間に解ける問題があるのです。

それに成功した時には、やはりカウンセラーとしての強い喜び、深い感動があります。

ピースが繋がった瞬間にトラブルが解消する例が多いです。その光景は何度、目撃しても劇的で驚きます。

まともな誘導者であり、習熟者であり、カウンセリングに深く関わる人であるならばきっと理解できます。それを一度でも体験すれば私の言っている意味はわかりますよ。

時間による制約

読解が難しい分だけ、喜びも大きいのです。時間こそかかりますが、そのほうが自然ですし心理的な負担も少ない。施術者側が無理な誘導を行った結果、不必要なイメージを生じさせることのほうが後で問題となるのです。

これらは催眠だけではなく、カウンセリングにおいても有効な方法だと考えます。

記憶は断片的なものが多く、捉えにくい場合が多いですから相談者本人にも漠然としがちです。

それをこちらが丁寧に話し合って拾い上げて整え、現われるもの(人物、イメージ、見える物、感情)を時系列に沿って並べ直すことで、少しずつ明確にしてゆきます。それがもっとも確実です。

ただ、この方法には決定的な問題があります。

膨大な時間がかかること、です。

本人の意思にまかせて追い詰めることはせず、ゆっくりと思い出して行くことに意味があります。ですから、あまりにテーマを絞り込んだり、性急に特定の出来事を「思い出せ」と、こちらが指示してしまった場合、相談者はかえって戸惑います。

高圧的な接触や誘導はカウンセリングなどではないのです。結果として偽の記憶とか誤った錯覚が生じやすくなるのです。

これが意外に難しい。やはり解決を焦るのは施術者(カウンセラー)相談者(被験者)共に同じですよ。金銭的な負担とか時間的な制約もありますから・・・。

医者であるならば投薬にも逃れられます。

私は医者でない分だけ逃げ場がない(笑)。検査をたらい回しとか、原因がわからないけど「ただ何となく」投薬を繰り返す、薬を変えてみるなどの手法も使えません。

何らかの解答とか結果が求められるようになります。私個人の感覚として、遠方の方で効果の薄い方にずっと交通費や施術費用、カウンセリング料を求めることには抵抗もあります。

ですからできるだけ早く、何とかはしてあげたい。

ところが、何かのショックな出来事とかトラウマを抱えている場合、本人が「思い出すことは嫌だ!」と思っていたり、強い嫌悪感を持っている場合もあります。

「トラブルは解消したい」「生活には支障がないようにしたい」と望みながら、問題となった根本の箇所には「触れて欲しくない」といった感覚が根強くありますから、簡単には近づきがたい。解決は急ぐのに「そこに触れる」には回りくどい手続きが必要になる。

お互いにジレンマに陥ってしまうこともあります。

それでも私が、カウンセリングや誘導に時間をかけるようになったのは、解ける時は「一瞬」だから。

焦って性急な道を選んだり、強引な誘導を行うとかえって解決が遠のきます。一時的にはよくなってもリバウンドというか再発してしまっては意味が無いですので、回り道こそが近道とも考えるようになりました。

精神的なトラブルにおいては数年とか数十年も苦しむ例も多い。対応を間違えると異様に長引くケースもあるんですよ。数週間とか数ヶ月とか期間と手間とか休憩を惜しんだために、結果として長引いてしまう場合もあります。

有名な歌手とか女優の方がおかしな相手と結婚して失敗してしまったり、大きな失恋の後に立ち直るきっけかを失って長く低迷したりすることもままありますが、そういったケースが多いでしょう。そこに薬物とか危険な行為が加われば尚更です。

強引な手法を用いて後々まで引きずるよりは一旦距離を置いて、カウンセリングと休養できちんと対処したほうが早く社会復帰できる例も多いものです。

忘却は悪いことばかりではない

難しいのは依頼者が、その辺りを理解してくれないケースも多々あることですね。

「催眠(術)で」「今すぐ簡単に」指先さえパチンッとならせばすぐに「自分が楽になって救われる」と思い込んでいるケースもありますから、理解させるまでが一苦労です。

まして、私は医者ではなくただの民間人。民間業者に過ぎませんからね(笑)。医療関係者や医者への指導こを行うことはありますが、基本的には一般人なんですよ。

相談者(被験者)が苦しまないように、後でトラブルにならないようにと願ってプログラムやカリキュラムを整えスケジュールを組んでも、理解してもらえず厳しい対応になることもあります。

あっという間に治したいから「催眠を」頼ったのに、そんなにゆっくりとしたスピードでやることはないと怒鳴られるとか、「あんたはきっと下手なんだ」などと思い込まれる例も過去にはありましたね。

長い年月をかけてトラウマとなった出来事は隠ぺい封印され、下手をすれば一生、思い出さない事例すらある。それをカウンセリング(催眠も含む)で思い起こそうとするなら、当然、時間はかかります。ですが、催眠さえ用いれば「何でも再現できる」「治る」との思い入れや錯覚も多いので、そこを説明したり理解してもらうのは大変です。

それでも、私は十分説明して理解して戴いてから施術に望むようにしています。

いわば、これはドブ浚いのようなものなんですよ。

記憶、特に「嫌な記憶や体験」は底のほうに沈み込んでしまいます。触れれば火傷したり、古傷が痛みますから・・・。苦い経験や思い出したくもないような経験など生きていれば一つや二つあるものです。

無いほうがおかしい。無いと主張する人は、ご本人が忘れているだけでしょう。

心の奥底に何か「嫌な匂いを放つもの」や、腐っているものもあるかもしれない。見るどころか触れることも思い出すことも、そんなことが「あった」事すら忘れてしまいたい、無かったことにしたいものもあるかも知れません。

多重人格(解離性同一性障害)などもそういった形で起こってきます。自分の人格とか内部にある心を「本体を守るため」に切り離すのです。

勘違いする例が多いので解説しておきますが、私は多重人格を「統合する」ことが正しいとも思っていません。場合によってはそのまま放置することもあります。

大切なのは「実害がないこと」なんですよ。

人格とか命とか心を守るために生じた副人格を、強引に他者が統合すれば自殺する可能性が高いでしょうね。過去を正確に思い出すことに他なりませんから。

統合すれば全てが解決、と言う訳ではありません。実生活や家族や周囲に迷惑をかけていないで、自分自身を上手に守っているのならそれを興味本位で暴きたてる筋合いもないのです。

健在意識の働きかけが弱まったり、その人の苦しみが弱まる瞬間が重要です。物事にはタイミングとかきっかけ、状況の把握が大切なんですよ。

多重人格とか、忘却が罪なのではありません。

その別人格が犯罪行為を繰り返すとか、周囲に多大な迷惑をかけ続けるとか、自分自身の「命」や生活を脅かすようになる場合には、対処が必要となるだけです。

ドブ浚いが必要になる理由

多重人格についての考察でも触れていますが、記憶の一部が閉鎖されたりロックされて伝わらないようになるのは、基本的には自己防衛のためです。

深層心理の奥底とか、別の人格を作り出してその「心の中」とか、自分では容易に近づけない場所とか部分に隠してしまうのは、それが振り返るととても辛い出来事だったり、どうしても思い出したくないと思うような経験だから。

誰しも、色々なことを忘れてゆきますよ。急速にではなく徐々に、ではありますが・・・。

それはその人にとって救いでもあるのです。

どんな情報も正確に覚えていればいずれパンクします。脳の容量がというよりも、心の許容量がそれを許さなくなるでしょう。相手とか他人、自分を許せなくなるかもしれない。

辛い体験とか苦しい体験、いやな出来事とか何かのトラブルを、いつまでも正確に覚えていて完全に再現してしまうなら、心の痛みもそのままの状態で保存されます。

それは流石に苦しい。

ですから、徐々に「消したり」「流す」のです。

ところが、その浄化作用とか痛みの軽減、忘却機能が働かなくなったり間に合わないケースがあります。

あまりにも激しい怒りとか悲しみ、苦しみ、虐待の記憶とかいじめなどは時間が経っても消えないことがままあります。マイナスのエネルギーが強くなってしまい、簡単には消えないのです。特に幼児期とか思春期に至るまでにそういったトラブルに見舞われた人はそうそう簡単に立ち直ることができません。

何年もかけて内部で怪物が育つ例もある。恨みによる犯行で時間が経ってから復讐に赴く人の多くは途中で諦めません。こと犯行に及んだら、相手を殺すまでやってしまうケースが多いでしょう。

通常はわざわざ蓋(ふた)を開ける必要はない。ご本人にとっても辛い記憶ですから・・・。相手がカウンセラーだろうが医者だろうが肉親だろうと同じ。他人に自分の恥部(ちぶ、恥ずかしい部分)とか汚点を覗かれたい人はいない。

一切見られたくない、知られるくらいならそのまま死にたいと望む人もいます。

それくらいの「衝撃」であり「嫌悪」「悲しみ」なんですよ。

ですから、いくら催眠をかければ引き出せるからといってそれを無理矢理に思い出したり、わざわざ全てをめくり、表に出してしまう必要がある訳ではありません。

それでも時折、自分の過去や原因を「思い出す」必要があるのは、その精神的なショックや出来事が本人に消化できず、マイナスのエネルギーとして溜まってしまい、現在の生活にどうしても適応できない場合があるからです。

安易に手を出す必要はないのでは?

原因がわからず、「飛行機に乗れない」とか「他人が恐い」また「一人になれない、狭いところ、暗い所がどうしても恐くて近寄ることができない」などの状況がずっと続けば、会社や学校にも行けず、普通の人達と同じ社会生活を送ることができなくなってしまいます。

時間の経過と共に症状が軽くなる場合はいいですが、どんどん悪化してしまう場合には、面倒でも「ドブ攫い」が必要になったりもします。

ハッキリ言ってしまえば、そういったことがなければ無理に思い出す必要はありません。生活に支障がなきゃ、そのままほっとけばいいんです(笑)。

多重人格であっても自然に人格が統合する例はあります。ドブ浚いをしない代わりに全体を小分けしたり柔らかなベールで覆っておいて、時間の経過と共に忘却してゆくことで自らの心とか環境、仲間や家族を守っているケースがあるのも事実です。

人の行動パターンなんて千差万別ですよ。十人十色。同じもののほうが珍しい。

飲んだ勢いで片っ端異性と関係持ったり、あちこちで浮気繰り返す人もいます。ギャンブルが止まないとか、毎日掲示板に他人の悪口を書き殴るのが趣味とか、露出狂、SM趣味、他人のプライバシーがどうしても知りたいとか。

毎晩どうしても飲み歩きたいとか、浪費癖が止めれない、窃盗や万引き癖があるとか、おかしな習慣とか趣味とか性癖を持つ人なんて社会に無数にいます。

そういった人と比べれば自分の中の「人格の一人や二人」どうってことはない。どちらかといえばそれは「多くを守るために」存在しているのですから・・・。

世間の懐(ふところ)は狭いようで広い。より多くの人に多大な迷惑をかけたり、犯罪とかトラブルに積極的に加担しない限り、黙ってとか笑って許してもらえる部分もあります。

「無くて七癖」(なくて、ななくせ)との諺(ことわざ)もあります。

人間なんてのは多少の難や問題はある。社会生活に支障がなかったり、大きなトラブルに発展していないならば、多少のものは抱え込んだまま前向きに歩いたほうがいいんです。

私は現在、幸せで問題が起っていない、と本人や周囲が認めているなら、無理に嫌な思いをさせてまで引き出しやタンスを漁ったり、まして痰壷(たんつぼ)掃除やドブ浚いをする必要はないと考えます。

記憶の一時的な封印、時間の経過と共に起こる記憶や体験の忘却は、一種の安全弁のような役割を果たしていると言っても過言ではないでしょう。

その「安全弁」がうまく働かない、完全に機能がおかしくなってしまった場合(例えば、フタが中途半端に開いたり、閉まったりして不安定だ、とか)には調整が必要となります。

特定の「誰か?」(多くは父母や自分の近親者、結婚しているパートナーや子供)を責めて殺してしまおうとしたり、極度に暴力的になったり、自暴自棄になって生活が破綻しかかったり、薬物とか飲酒などの悪癖が止まらないなどです。

私には催眠を盲信したり、安易に「自分の前世を知りたい」などと言う人の気持ちがよくわかりません。

前世を知る事に何の意味があるのでしょう?前世が貴人(尊い立場の人)だったり、武人(侍、ヨーロッパの貴族)だったりしたら何かが変わりますか? 自分で努力する内容が異なるのですか? 身体に障害がある方が、前世を知った瞬間に全ての障害から開放されるのですか?

そういった浅はかな自己満足のために、わざわざ危険に近寄る必要もない、と私は考えています。

まあ、確かにそれらは不思議な現象ではありますが・・・。ですがあまりに安易に好奇心で片っ端に手を出すと歪んだ価値観を植え付けられたり、誤った情報を真実だと信じ込んだり、前世を理由に家族や周囲を詰ったり(なじる、悪口を言う)誰か(友達や障害を持つ人)を傷つける可能性もありますよ。

おかしな宗教団体とかカルト集団に騙されて捕まったらどうするんですか?

まして何でも載せて煽る事が出来るネットの情報だけを信用して、安易に前世催眠にかかりにノコノコと出かけてゆかないように。

偽の記憶症候群のような事例もありますから。

十分にご注意ください。

細心の注意と思慮深さを

催眠中は連想する範囲を限定すべきではないか、と私は考えます。

特に高圧的な質問や、催眠中に返答に詰まる人への安易な追い討ちとか「あなたは何かを見た筈だ!」といった問い掛けは危険を伴います。被験者が自分の「頭の中にあるイメージ」を増幅して現実にあったことのように錯覚する可能性が出て来ますから・・・。

誘導には細心の注意が必要です。強引な方法や指示、暗示を用い、誘導者の主観を押し付けたり、意図的にどちらかの方向にもっていってはいけません。

私は誘導を行う場合にはどのような状況においても必ず記録を残します。動画などを撮っています。それは自分の手順を確認するためと後に、膨大なヒントの中から情報を拾い集めるためです。

それを残すのは被験者のためでもありますし、自分自身のためでもあります。催眠のかかり方が深く、被験者が施術中に記憶を失うことがあっても、おかしなことはしていないという証明にもなるものです。

多重人格や前世催眠などでもそうですが、それが「ある筈だ」と考えて、最初からそういった方向に用いれば、被験者は自分の感覚に合う幻をつくり出しかねません。それは結果として、新たなトラブルを招きよせることにもなりかねません。

はっきり言いますが、そこには救いなどないのです。

※ちなみにですが、普段から妄想癖の強い人は催眠誘導中にも長々と幻想(?)を話すことがあります。作家とかタレントさんでも数時間、話し続ける人もいますよ(笑)。自分の作った「前世」というストーリーや架空の「実体験」を遠大な物語として展開する例もありました。

それはそれで一つの才能、素晴らしいきらめきのように思いますが、正直、全部を書き留めたり向き合うのは疲れます(笑)。数時間とか数日に及ぶ人もいますので。

過去にそういった体験が何度かあったので、私は催眠と前世とは切り離して考えています。

強引な誘導、特に何かを決めつけたような問いかけ「○○について話せ!」と強要するような行為は、催眠中には行うべきではない、と私は思います。

カウンセリングや催眠の取材を事前にきちんとせず、現実を知らない思いつきだけで作られたテレビドラマや映画には時々、間違った誘導を行うシーンがありますね?

先に触れた「お前は何かを見た筈なんだ」「何を見たかを話しなさい!」などといった問いかけは、その典型でしょうね。

催眠は確かに便利な部分も多く持ちますが、いくら催眠とはいえどんな事でも正確に思い出し、何だって行える、という訳ではありません。

自意識が遠のいて現実感を失っている人とか、自己防衛本能に根ざす防御が働いている人に、強引に問いかけを行っても正確な事実とか真実などは現れませんよ。

かえって偽りの記憶などが出現する可能性が高いと思われます。

ああいった手法(時折、テレビドラマやマンガなどで行われる強引な方法)で行えば、今後、日本においてもあちこちで、様々な問題を生じさせることになるでしょう。

催眠中に起こった偽の記憶、現実の体験にそっくりな「勘違い」はタダの勘違いでは済みません。現実に近いか、現実とほぼ同じだけの重みを持ちます。

催眠誘導においては、施術者には客観的で冷静な判断が求められると思います。

※現在執筆中の小説と関係していますので一時期削除していた記述です。検索エンジンでこのページへリンクしている所がたくさんあるとわかりましたので今回、復活させておきます。

腹ただしいことですが最近(2010年)になって、またおかしな団体とかテレビ番組が前世催眠などを煽っているようです。無用なトラブルを回避するため、よく読んでカウンセリングの意味や偽りの記憶について正しく理解してください。

2000年04月10日 旧会員制ページからの改定

2010年08月19日加筆、修正

谷口信行

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